憂いのゴキブリ

憂いのゴキブリ

日記の内容は全て著者の妄想です。

誹謗中傷と冒涜をください。
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僕の日常と言えば、夥しいほどの脱力と無気力の羅列で、
それらの配列を成しているものは同じ質量のかまぼこ板のようなものだから、
事故なり病気なり老衰なりで一生を終えた後、過去に向かって外力を加えてみるとドミノ倒しのように、生まれた日にまで遡って倒れていってしまう。
それでは何だか虚しいから、途中につっかえ棒のようなものが欲しい。
そう考えて変わらない日々を打破してみることにした。




「出逢いが欲しい・・・」




手を広げようとすれば、左右に10センチ広げるのがやっとの密閉されたダンボール箱の中。
あるいは、yahooオークションで落札したゴムゴムの実を食べて両手が無限に長く伸びたとしても、塵一つ掴めない。
男友達はいたとしても女の子と小学校以来ろくに口を聞いたことも無い僕は、そんな孤独の中に生きているようだった。


やはり出逢いだ。
それも女の子との。


冷たい氷の上をただ一直線に、かまぼこ板で出来たスケート靴を履いて滑っているだけのような日常を変えるには出逢いしかない。




・・・僕は出逢い系サイトに書き込みをしてみることにした。
普通の出逢い系では駄目だ。
サクラが殆どで、求めている出逢いなどある筈が無い。


2週間、日記も書かずにひたすらネットサーフィンした僕は、1つのサイトに漂着した。


「FREEダム」


ヴィジュアル系のバンドをやっているバンドマンとそのファンの女の子達との出逢い系だ。
ここなら女性の方が圧倒的に多く、しかもサクラもいないように見える。


「都内中心ニ活動シテイマス。
ヴォーカルヤッテマス。
年ハ19歳デ顔ハカッコイイデス。
出逢ッテクレル人イタラメールクダサイ。
止マラズニ崩レテイク築キ上ゲタドミノヲ止メテクレル支エガ欲シイデス。
urei-gokiburi@compass.jp


ひとしきり自分を偽った後、ノートパソコンを閉じて今日は眠ることにした。




リズリサのショッピングバッグを持っている女子中学生が何より好きで、そんな少女達に囲まれて官能的に死んでゆく、そんな夢を見たい。

出来の悪いCGの草原だった。
幾重にも折り重なった黄緑色の草が、吹いていないはずの風に揺られている。


・・・僕は後ろからゼシカを犯していた。
喘ぎ混じりにマダンテを唱えようとする、小さな口を左手で押さえながら。


左を見れば、首を吊ったヤンガスの死体がぐったりと木からぶら下がっている。
しなった枝は今にも折れそうだ。


少しずつ腰の動きを僕は速めて、小さな声でべギラマと呟いてみたが何も起こらなかった。


もう少しで絶頂に達するところだったけれど、
どうのつるぎで襲い掛かってくる主人公を安物のトカレフで撃ち殺したところで、夢から醒めた。




起きてから30分もすると、見た夢はもう思い出せないくらい不透明に褪せて。
くたびれたTシャツに着替えて街へ出かけた。


電車を乗り継いでラバナスタのファミリーマートで、今流行りのポーションを買ってみた。


自動ドアを出ると、薄汚い浮浪者が身体を丸めていた。
良く見ると老婆のようだ。


僕は、

「良かったら、おひとついかがですか」

と声をかけ、手を伸ばしてきたそいつに頭から薄青色の液体を浴びせかけた。


目を丸くして少し潤ませた彼女は、怯えたハムスターのように小刻みに震えていたけれど、それ以外、別段変わった様子は無く。


「なんだ偽物か・・・」


空き瓶入れの隣にある燃やせるゴミの中へ、僕はそっと投げ入れた。

東急大井町線で走行中にドアが開くというトラブルがあったらしい。

yahooニュースを眺めていたら目に入った。




僕も投げ出されてしまいたかった、遠心力に乗せて。


「死にたい・・・」


そう思うことは多々あるけれど、実際死ぬわけではないし、その真似事すらするわけではない。
だけど、今のこの気分を表現するのに適切な言葉と言えば、それ以外を探すことが容易くなかった。


何か原因となるものがあるのなら、それを解決すればこの気分は解消されるのだろうけど、そういったものがあるわけでもない。

この年になって無職であることを恥じているわけでもないし、慌しく活躍している同世代の友人を羨ましいと思うこともないのだ。


むしろ僕は、心の奥底で彼らを見下している部分があった。


いっぱしに教養を身に付け酒の席でまで講釈垂れているが、無能な人間というものは教養を身につけようが経験を積もうがそう簡単に賢くなるものではない。


何処かで聞いたような言葉を、さも自分が思いついたことのように偉そうに吹いている。


そして「オマエみたいなのが羨ましいよ」と、蔑んだ、カエルのような目で僕を見ながらお決まりのセリフを吐くのだ。




昨日の酒の場も例外では無かった。


僕は追従笑いを浮かべながら、氷の溶け切ったモスコミュールの最後をぐいっと飲み干して少し視線を外す。
掌に付着した水滴はどこかべたべたしていて気持ち悪かったから、乾いたおしぼりで何度も拭き返した。


隣の席では木村が得意気におしぼりでアヒルを作っていた。




今日目覚めて、昨日の記憶を呼び起こしながらトイレで喉の奥に指を突っ込んだ。


嘔吐したそれには、キムチチャーハンとレアリストのプライドとビックリマンシールのヘッドロココがカシスソーダで真っ赤に染められていた。

惰性と呼ぶとしても、あまりに力弱い進行だったが、
それでも時間と共に流れる変わらない日々を省みるために日記をつけてみようと思う。
 
 

空家順太郎(アキヤジュンタロウ)、29歳、高卒。
ブルースカイの「空」に大草原の小さな家の「家」、そして「順太郎」。
 
 
 
六畳一間のアパートで一人暮らしをしている。
先日まで勤めていたドムドムバーガーが、デフレスパイラルの影響で潰れてしまって今日から無職だ。
これが不況というやつなのか。

非建設的で無生産の毎日。

趣味といえば人より少し上手い程度のシューティングゲーム。
前世はフリードリッヒ・ニーチェ。
好きな芸能人はデビュー当時の辻希美。

他人に迷惑をかけていないのと少々の友人がいることが救いだろうか。
もちろん夢だ希望だといった類のものは数年前から考えたこともない。

ただひたすらに消化…消化…。
 
 
 
高3の頃、ルーズリーフの隅に走り書きした詩を見た友人の青崎が言ったっけ?

「やっぱりお前は普通の奴とはどこか違うよ。
勉強なんてほとんどしていない割には成績もいいしさ、きっと将来大物になるよ。」

ごめんな、青崎…オマエの期待にはこれっぽっちも応えられていないよ。
今日も三食ペヤングソース焼きそばの日々だよ。
明日は久々にGooTaが食べられるかな?

そう言えば、オマエが好きだったインディーズの青春パンクバンド…
…なんて言ったっけ?そうだ、キックベース21だっけ?
きっとあいつらはメジャーでも通用するって言ってたよな…

ヴォーカルの坊主頭が昨日、横浜駅の有料トイレで首を吊って死んでいたそうだよ。
さっき2ちゃんねるのニュー速板にスレッドが立っていたよ。

青崎…オマエは確かに凡人だったけれど、1浪して早稲田の政経に入って銀行員になっているそうだね。
オマエは努力家だったもんな。
こないだは同窓会誘ってくれたのに行けなくてごめんな。
 


・・・カーテンの隙間から南中を終えた太陽が僕をあざ笑うかのように照らしている。
テレビをつけると、昨日からマドハンドを倒し続けていた僕の分身はレベル57に上がっていた。
もうエスターク…倒せるかな?

今日はこれからハイパーダッシュモーター(公式戦使用不可)の折れた金具をハンダ付けします。