「赤いモノが
ありましたから生検採りました。」


「他には明らかに
悪い部分は見当たりませんでした。
後は外来で結果を
お話しします。」



胃がムカつく…


イヤ



腹部全体に不快感
がある



苦しい…



病院の領収書を見る

「病理検査」
の文字がある…


この数日間の胃の
不快感は癌の再発
なのだろうか…?



腹部の不快感は
転移なのだろうか?


だとしたら俺はもうダメなのだろうか



イヤ…




会社で流行っている胃腸炎を伴う風邪
だろう!



いろんな考えが
頭をグルグル廻る



嫁にメールをする



「明らかに悪い部分はないってさニコニコ




嘘をついた
「生検準備!」






何て言った…!?



生検!?





組織採るのか…!?




つまりは
医師の目で見て
あやしい部分が
見られるという事だ



頭の中の
「愚か者よ」
はストップし
かわりに警笛が
鳴り響く…




5年目にして
初めての組織採取
である



目の前が暗くなる



鼓動が速まる




気がつくと
内視鏡は抜かれて
いた


自分でも明らかに
分かる位ヒドイ顔になっている



この5年間無事に
過ごしてきた…



死神の手を
振りきったと思った




だが




死神の手は容赦なく俺のシャツを掴んだ…


検査室の中に入り
ベッドに横になる

比較的若い先生が
現れた


「どうも
こんにちは。
それでは
始めますねニコニコ


内視鏡がノドの奥を通り過ぎる

一番苦しい所だ

「ここで飲み込むようにして下さいね」

先生が言った


看護師さんが背中をさすってくれている





どうやら胃に
届いたようだ



体調が悪いせいか
いつもより苦しい…


時間が長く感じる



胃が重苦しい…



イヤ


腹部全体が
重苦しい…



カメラに胃の中を
グルグル掻き回されているようだ…




4年目までの検査では経験した事のない苦痛だ……



頭の中にはまだ
「愚か者よ」が
流れている…




その時先生が言った







「生検準備!」