ボクは、初めて【公共ドッグラン】に入った。
家から30分あまり、東名高速のサービスエリアに併設されているドッグランは、一般道から入って利用できる。
何回か来ているが、いつもフェンスの外から見学だけ。
ボクがどんな行動に出るか分からないから、飼い主は怖くて入れなかったのだ。
平日だけあって、駐車場も空いている。
ドッグランには、誰もいなかった。
「これなら」と、飼い主は入口の二重フェンスを開けた。
貸し切りなのに、飼い主は用心して、リードを付けたまま入場する。
ボクんちのドッグランの1.5倍くらいの広さだ。
まずは、嗅いだことのない臭いに夢中になる。
人工芝の足ざわりも初めてだ。
しばらくしたら、トイプードル2頭を連れたご婦人が入ってきた。
見るからに小せえ…犬が、だ。
だが油断は禁物だ。
ボクは、飼い主を引いて近寄り、1頭のお尻の臭いを嗅いでみた。
「15歳のオジイチャンよ」と、ご婦人が言う。
ボクはオジイチャン犬は初めてだ。
大丈夫、ボクがやられることはあるまい。
もう1頭は、ボクの存在など気に留めず、自由に歩き回っている。
愛犬家同士というのは、その場ですぐに、気安く話せるものだ。
飼い主とご婦人は、時々言葉を交わしながら、ボクたちを見守った。
だが、ボクたちは、追いかけっこすることもなく、
互いに興味を持つことなく、終わった。
ご婦人は、「柴ちゃんも、だんだん慣れて遊べますよ。飼い主さんが怖がってると、伝わってしまいますよ」などとアドバイスをしてくれ、「ありがとう、またね」と2頭と共に出ていった。
そして思い出したように。
「向こうの、もう一つのドッグランに、5歳だっていう柴ちゃんがいましたよ」
再び、貸し切りになった。
ボクも飼い主も、今日はまだ練習だから、この中を歩くだけでよかった。
ボクが興味を持ったのは、ウンチBOXだ。
飼い主が離れたところからどんなに呼んでも、ボクは動かなかった。
そこはかとなく、臭ってくる、他の犬のモノ。
気になる。
飼い主が、ボクの好物のリンゴをおやつに持ってきたけど、ボクは食いつかなかった。
ここで、ウンチBOXの見張り番をする方が大事だった。
やがて日が傾き、小腹が減ったボクは、飼い主の手にあるリンゴを思い出して、かけ寄った。
ドッグランに入って、初めて走った。
「走った?
これは、走ったとは言えない。
小走りにもならない。
全速力で走るのだ伊太郎!」
飼い主の声をよそに、ボクは全速力でリンゴを食べた。