このブログを訪れている方はある程度、漏斗胸についての知識を持っている方と思われますが、私なりの切り口で漏斗胸について掘り下げ、解釈を試みたいと思います。まず、漏斗胸とはどういう病気であるのか、国際的分類から読み解いてみましょう。
 ICH国際医薬用語集日本語版(※)によると、漏斗胸は次のように分類されているようです。

・先天性、家族性および遺伝性障害
┗・先天性筋骨格系および結合組織障害
 ┗・体幹の先天性筋骨格系および結合組織障害
  ┗・先天性漏斗胸

・筋骨格系および結合組織障害
┣・筋骨格系および結合組織変形(椎間板障害を含む)
┃┗・体幹の変形
┃ ┗・後天性漏斗胸
┗・先天性筋骨格系および結合組織障害
 ┗・体幹の先天性筋骨格系および結合組織障害
  ┗・先天性漏斗胸

・呼吸器、胸郭および縦隔障害
┗・胸郭障害(肺および胸膜を除く)
 ┗・胸郭の筋骨格系障害
  ┣・先天性漏斗胸
  ┗・後天性漏斗胸

 これを見ると、単に「漏斗胸」というものはなく「先天性漏斗胸」と「後天性漏斗胸」に二分されています。漏斗胸の原因について、遺伝的なものから出発しているのを疑う一方で、そうでないものもあることを認めているようです。
 ちなみに漏斗胸とよく比較される「鳩胸」は、「先天性」のグループに属していました。

※ICH国際医薬用語集
医療に関する国際間の情報交換を迅速かつ的確に行うために、国際的に共通する用語集として医薬品規制ハーモナイゼイション国際会議(ICH)において作成された、症状、徴候、疾患などに対応する医学用語集。米国の国際維持管理機関(MSSO:Maintenance and Support Services Organization)で国際的に維持管理され、原則年2回更新される。
http://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?ICH%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E5%8C%BB%E8%96%AC%E7%94%A8%E8%AA%9E%E9%9B%86


また、ICD国際疾病分類(※)では、漏斗胸を次のように分類しています。

・先天奇形,変形及び染色体異常
┗・筋骨格系の先天奇形及び変形
 ┗・頭部,顔面,脊柱及び胸部の先天(性)筋骨格変形
 ┗・漏斗胸

 こちらでは、先天性のものだけを「漏斗胸」と言っており、それ以外のもの(後天性のもの?)は「胸郭変形」「胸骨陥凹」などとしか記しておらず、「漏斗胸」とは言っていませんでした。つまりは「漏斗胸」とは、生まれつきの病を指しており、それ以外のものを認めていない、もしくは、それ以外のものとは異なるものであると考えていることが、想像できます。

※ICD国際疾病分類
異なる国や地域から、異なる時点で集計された死亡や疾病のデータの体系的な記録、分析、解釈及び比較を行うため、世界保健機関憲章に基づき、世界保健機関(WHO)が作成した分類。
http://www.weblio.jp/content/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E7%96%BE%E7%97%85%E5%88%86%E9%A1%9E


 わが国の厚生労働省ではICD国際疾病分類に準拠し、統計調査、医学的分類として医療機関における診療録の管理等を行っているようです(http://www.mhlw.go.jp/toukei/sippei/)。すなわち、日本国の認識としては「漏斗胸」は「先天性」のものだということになっており、もし「後天性」の胸郭変形があったならばそれは「漏斗胸」とは言わない、もしくは、「後天性」であっても「先天性」だと捕らえる、と想像ができます。

 先天性と後天性で何の違いがあるのか、病気的には何も違いがないのかもしれません。しかし、ICH国際医薬用語集が医療目的であり、ICD国際疾病分類は統計目的であり、目的が異なるとはいえ、国際的な分類で漏斗胸に対するこのような捕らえ方の違いが見られるというのは、患者としてはそれで的確な治療が受けられるのか不安がわいてきます。また医療の分野でも、漏斗胸が先天的なのか何なのか「よくわからない」と答えざるをえない状況にあることが伺えます。

 ICH国際医薬用語集が年2回更新されているのに対し、ICD国際疾病分類が約10年ごとの更新で2003年の一部改訂が最新(2003年改訂、2006年適用。次回改訂施行は2015年※)ということであり(2011年8月現在)、私としては更新の頻繁なICHを支持し、漏斗胸とは、先天性のものと後天性のものと区別がつき、発端の原因が違うものがあるらしい病である、と理解したいところです。恐らくそれにより、治療法も、治療後の成績も代わってくるのではないかと想像します。まだまだ飛躍的な解釈かもしれませんが。皆さんの認識はいかがでしょうか。

※ICD-10からICD-11への改訂に向けたWHOの動向等について
http://www.dis.h.u-tokyo.ac.jp/byomei/icd11/kousei-icd11-200707.pdf

尚、ICH国際医薬用語集日本語版、ICD国際疾病分類は、インターネットより検索した結果であり、その性質上、正確性、事実性において、確実な情報であることまでは追求調査していません(※)。

※ICH国際医薬用語集日本語版、ICD国際疾病分類のデータベース
http://fire3.scl.genome.ad.jp/kegg-bin/get_htext?query=08430&htext=jp08903.keg