再三紹介していますが、大工の日当が出ましたので、越後屋と同じ

呉服の大店であった白木屋の給与の話を。
　白木屋

富沢町店の記録が残っている。

恐らく、日本橋店と同じと思えるのでこの明細を見ると。

元服後３年目までは４両。

丁稚小僧のお仕着せ（制服）は、伊勢縞という木綿縞に前垂れが

制服である。

「一寸づつ　叱って仕着せ渡すなり」

気が緩まないように、叱りながらお仕着せを渡して行きます。

此処からお仕着せも変わり、伊勢縞から綿結城に変るのです。

「元服のお仕着せ　松坂超えたなり」

買い出し役になった時６両、支配役は１０両。

ここまで２２年掛かる。

４０歳近くなります。結婚は３０歳過ぎでないと店の許可が

出ませんので、江戸時代では晩婚になります。

夢は自分の店を持つことと。

そして、一人娘だったら、あわよくば、養子になって店を継ぐこと。

「小糠三合を持ったら婿に行くな」と云われましたが、大店の主人に

なれるなら、そんなこと気にしません。

皆、貧困家庭出身の出ですから、婿入り先が大店なら話は違います。

そして、白木屋ですとこの辺から毎年年の暮れに退職願を

出しておくのです。

要するに一年契約のようなもので、これをクリアしていくと役員コースに

入って行くのです。

厳しい生存競争になります。

　　松坂屋

然しである、実はこの給与は金を受け取るのではなく、

店から借りる形になっているのです。

要するに何か必要なものは、店を通して買う。

それが給与内であれば問題無い。

是は金を持たせて碌な所へ行かないようにと云う配慮でしょうか。

それだけ、無駄に使うケースが多かったという事でしょう。

　　藪入り

最初は健気に藪入りの時も閻魔堂に参詣して、

早く一人前になれますようにとか願うのです。

「伊勢縞の時は閻魔を尊がり」

ところが、馴れるにつれて芝居小屋や廓に行くようになるのです。

「江戸の水飲むと油を売りたがり」

ともあれ、現金は持たせず店で預かるのです。

そして金は積み立てられて退職時に返される。

退職金は富沢店の例が有ります。

３３年勤続の支配役を務めた例ですと。

御祝として、銀１１０匁の最上級の白紬一疋と銀６０匁の生絹、

勤続年数によって内容が変わります。

退職金は、支配役だと越後屋ですと４００両～千両と云われている。

当然貯めておいた貯金も有りますから、生活は問題ありません。

越後屋店内

隣接している越後屋両替店では、しかも、ボーナスがあります。

これは担当部門売上実績（管理も含めて）が、店の売り上げに応じて

成績の良い人は退職金と同じくらい出たそうです。

これに対して呉服店の台所衆の場合は、２０年以上でも青梅縞１反、

もっと少ない場合は１０匁台のものですから、やはり、表の販売に

勤務する人とは大分違います。

ちなみに呉服店は入社すると、台所部門と販売部門に分けられ、

その後入替は有りません。

女性は一人もいません。

越後屋ですと、無事に定年を迎えることを「首尾能暇」（しゅびよくいとま）

といい、自分の店を持てます。長年の夢であったでしょう。

その際、暖簾も許されます。

但し、身分によって異なります。

番頭クラスには「越後屋」の屋号と丸の越の字の暖簾。

役職者には、本店と同じ「丸に井桁三の字」の暖簾と屋号を許した。

暖簾を貰うという事は、店の傘下に入るという事であり、営業職種や

品目なども店の許可を必要とした。

その代わりに、「丸に井桁」に対する大きな世間の社会的信用も

得るのである。

又、越後屋呉服店は画期的である切り売りを始めました。

今まで反で売っていましたが、これで助かったのは貧乏な長屋の

住民で、１反からは６尺褌が６本取れます。

金を出しあって買ったといいます。

褌は貴重品でして、湯屋で盗まれることも多く、その為、入浴の時も

頭に括り付けて入るし、行き倒れの時も、まず褌を盗んだといいます。

今のレンタル屋である損料屋も褌のレンタルをし、１５０文という

高値ですが、返す時洗わないでも良い、という便利さを買われて

大変人気があったという。

　　１０歳くらいで江戸を目指しての旅です。

白木屋では病気などで、入社１，２年目での退社が多かった。

特に、脚気です。

両替店というのは、江戸時代は、金・銀・銭の３通りの金があり、

銀は明和年間に定量銀貨と云われる５匁銀と南鐐２朱銀（７５０文）

が出来るまで重さを計っていたのです。

両替商の看板に重さを計る天秤が有るのはその為でした。

幕府は、公定レートを金１両が銀６０匁でしたが、これは変動相場であり

相場は変動したのです。

従って、一番高い時に両替をしませんと損をすることになる。

庶民が使うは、波銭と呼ばれた４文銭などの銅貨が主でした。

１両小判など滅多にお目にかかりません。

そこで生まれたのが「是れ１両　たった一晩でも　居てくれろ」

それらを替えていきませんと買い物もできません。

隣の呉服店で買いたいと云っても、金を両替する必要が出てきます。

その際は、しっかり手数料を頂きます。

　波銭と呼ばれた４文銭

是を使った４文屋という店が多く出来て、今でいう１００円ショップでした。

両替店

「青海波を　山に積む両替屋」

青海波とは、波銭の模様が付いた４文銭。

山と積まれた中から、悪銭を選び出すのです。

　　味噌醤油問屋

樽の話をしてましたら、全然関係の無い話になりました。

話をずっと前に戻します。

さて、江戸の地酒で知られていたのは、「宮戸川」「滝水」「隅田川」

「都鳥」などである。

「隅田川」については由来が２つ有る。

１つは、隅田川の水で醸造したもので、その酒を伝法院に献上し、

隅田川諸白という名を頂戴した。

もう一つは、本所に在った細川備後守の屋敷に在った名水の井戸の水で

醸造したとの説もある。

しかし、今では信じられないが、隅田川の水はそこまで清浄であった

という事である。

もう一つ、「滝水」という酒は、和泉町に在った四方久兵衛の酒である。

「酒味噌で　その名も四方へ響くなり」

と有るように、ここの味噌もまた有名であった。

上白といわれ、良質の赤味噌が評判であり。

「重箱で取り囲まれる　四方が店」といわれ、赤味噌を買うために

重箱を持った客に取り囲まれた。

しかし、途中に芝居小屋があるために、使いの途中で芝居小屋に

寄ってしまう小僧も多く、そこで「看板を見るなと味噌を買いにやり」とある。

御家人であった太田南畝は、４０歳まで狂歌師として有名であったが、

突然、幕府の昇級試験である学問所吟味を受け、

見事に御家人で首位で合格した。

旗本の首位は、遠山の金さんの父でした。

蜀山人の名の他にも幾つかの名を使っているが、

その一つに四方赤良の名がある。名前を借りたのです。

この名で、天明狂歌の中心として活躍した。

狂歌の中で紹介すると、

「世の中は酒と女が仇なり　どうぞ仇にめぐり会いたい」

或いは、「世の中はさてもせわしき酒の燗　ちろりの袴着たり脱いだり」

４年目の春から５両。

江戸の名物－１－４