『死ぬまでに観たい映画 1001本』 | レイモン大和屋の <シネ!ブラボー>

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映画感想、読書感想を備忘録として書いてます。
三浦しをん氏のエッセイを愛読しています。
記憶に残る映画と1本でも多く出会えることを願っています。

 

『死ぬまでに観たい映画 1001本

      スティーヴン・ジェイ・シュナイダー総編集

         (発行・発売 ネコ・パブリッシング)

 

映画を愛するすべての人に捧げる千夜一夜物語 

1902年から2013年の映画の中から、時代、国、ジャンル、ムーブメント、伝統、監督、俳優など多岐にわたる観点で

1001本を厳選。9カ国76人の映画評論家による簡潔で刺激的な寄稿。監督、スタッフ、キャストなどをすべてアルファベットで表記。日本で見られるDVDリストを記載(裏表紙より)。

 

総編集者による本の「はじめに」ではこう書かれている。

「1001本の映画を決定する最初のステップは、既存の「傑作」「トップ」「お気に入り」「ベスト」作品を収めた数多くのリストを吟味し、登場する回数の多い作品に優先順位を与えることだった。こうすることで、広く名作と認められた作品を(現代の作品を含めて)明らかにでき、質と評判が保証された部分が確保されることで自信をもつことができた。こうした時には偏りのある短い映画リストにある全作品が本書に含まれているわけではない。しかし、この方法は少なくとも大きな参考になり、選択プロセスにおいて避けられない主観の問題をかなり減らすことができた。ざっと1300ほどのタイトルを選び出すところまでいくと、今度はそのリストを何度も繰り返し吟味し、全体の数を減らしながらも、さまざまな時期、国、ジャンル、ムーブメント、伝統、注目すべき映像作家の作品をカバーするという矛盾したふたつの目的を達成しなければならなかった(以下略)」

 

世界にはこれだけ多種多様な映画作品があるということを実感として知るにはこれ以上の本はおそらくないだろう。そのなかに、製作された本国でも海外の権威ある映画祭、諸映画祭で受賞歴があって多くの映画評論家に評価されながら、ある個人の映画ファンにとってそれは「死ぬまでに観たい映画1001本」のリストに入らない作品が何本かあるいは何十本か紛れていたとしても。

 

この本は映画には多様なジャンル、表現形態、表現様式、表現方法があり、10数分の短篇映画にも本質的な価値があり、リュミエール兄弟によって始まった映画の歴史(一般人に向けての世界最初の映画上映1895年)以来、世界で製作された映画作品は膨大な数に及び、映画ファンが死ぬまでに観ることができる作品は砂丘の中の一握りの砂のようなごく僅かな作品に過ぎないことを認識させてくれる。

 

映画史上の名作『太陽がいっぱい』やトニー・リチャードソンの作品(『長距離ランナーの孤独』『マドモアゼル』『ホテル・ニューハンプシャー』)がスッポリ抜け落ちていたり、ヒッチコック作品が16本あったり、黒澤、溝口、小津以外の成瀬巳喜男 

内田吐夢、川島雄三、鈴木清順、加藤泰、深作欣二、吉田喜重、増村保造、相米慎二、長谷川和彦ら日本映画を代表する他の監督の作品が1本もなく、ムーブメントとして中田秀夫の『リング』三池祟史『オーディション』が入っていたり、毎年10数本の作品が削除、追加されたり(多い年は50本の作品が入れ替え)『戦慄の絆』が『旋律の絆』になっていたり、あわわという所もあるが、78人の寄稿者による素晴らしい紹介記事、批評、エピソードがこの本に収められている。

 

ネコ・パブリッシングという奇妙な名前の出版社から、世界の名作、迷作、珍作、ほとんど名も知られていない短篇が960ページの本の中に投げ込まれ、カラーやモノクロ写真による視覚的具象性によってイメージがふくらみ、オーソドックスな『世界映画史上のベスト100』のような本では味わう事が出来ないカオスにあふれた映画世界が醸成され、ある種型破りな選出作品の自由さと偏向性はこの本の何よりの魅力。無知な映画ファンを覚醒せしめるこのような労作を完成させた、制作スタッフ、寄稿者の方々に感謝したい。(カルチャアエンタテイメント(株)ネコ・パブリッシング事業部。英国クアルト出版発行の日本語版)

 

【選出作品 監督上位20人】

アルフレッド・ヒッチコック 16本

イングマール・ベルイマン  10本

スタンリー・キューブリック 9本

スティーヴン・スピルバーグ 9本

ルイス・ブニュエル     8本

ジョン・フォード      8本

ジャン=リュック・ゴダール 8本

ジョン・ヒューストン    8本

ウィリアム・ワイラー    8本

ジョージ・キューカー    7本

フェデリコ・フェリーニ   7本

マーティン・スコセッシ   7本

ウディ・アレン       6本

ロバート・アルトマン    6本

ミケランジェロ・アントニオーニ 6本

ヴィンセント・ミネリ    6本

マイケル・パウエル(共作含む)6本

オーソン・ウェルズ     6本

ビリー・ワイルダー     6本

黒澤明           6本

溝口健二(参考)      3本

小津安二郎(参考)     3本

市川崑(参考)       3本

 

今回読んだのは2014年版(2015年第2版第1刷)(1902年~2013年までの作品を選出)で、発行元の海外版は毎年作品の何本かが更新(入れ替え)されながら毎年発売されているが、日本では何年置きかで発行され、最新版は2022年11月に発売。日本未公開作品が41本、DVD未発売作品が138本(2014年9月19日現在)となっており、この中にはビデオ発売されている作品も多くあり、現在(2023年3月時点)ではその後のDVD化によって鑑賞可能な作品は大幅に増えていると思われる。某記事によれば、累計1237本のうち1100本を鑑賞済みという人もいるようです。私が観ていたのは2023年3月4日時点で451本。