第88回アカデミー賞で作品賞・脚本賞を受賞した作品「スポットライト」。ボストンを舞台に、カトリック神父による児童への性的虐待問題を摘発した新聞記者たちの奮闘を描いた作品である。扱っている内容は非常に重く、衝撃的ではあるが、正直、出演陣の演技・ストーリー・映像等は佳作という感じで、映画自体の完成度がそこまで高いとは思えない。
カトリック司祭の児童への性的虐待問題は欧米諸国では非常に有名な問題で、映画でも紹介されているが、カトリック神父の6%は小児性愛的傾向があるという。これは神父の独身制、及び性道徳を重んじるが故に、性的な精神発達を止めてしまい、幼稚な性欲のはけ口として、無防備な児童を虐待してしまうのである。もともと神父の独身制は、神父に子どもがいると教会財産が子供に流れる危険性があったため、教会財産の保存のために成立したという。結果的にカトリック教会は莫大な蓄財に成功し、巨大な組織へと発展したのだ - 現代ではその巨大組織がスキャンダルの隠蔽にも役立っている。そもそもイエス・キリストも、古代の文書には妻がいたとする書物も残っており、神父の独身制は不可解な制度である。プロテスタントの牧師は妻帯が許されているので、カトリックのような問題は聞かれない。
こうしたカトリック神父の児童への性的虐待問題は、「フロム・イーブル」「Song for a Raggy Boy」(日本未公開)「オレンジと太陽」など映像的にも取り上げられている。先代のローマ教皇のベネディクト16世の退位となった理由の1つでもある。彼も自身の教区で起きた性的虐待問題を隠蔽していたのだ。今回の映画がここまで注目されるのは、アメリカの権威あるアカデミー賞作品賞に輝いたことだろう。アメリカはヨーロッパのピューリタンが築いた国であり、キリスト教国であり、カトリック教会のスキャンダルはタブー視されているはずである。前回の、アカデミー作品賞の受賞作も黒人奴隷をテーマとした米国の負の側面を扱う「それでも夜は明ける」であった。米国はすでに出生児の半分以上は白人以外であり、人口の勢力図が変貌し、それが社会意識にも変化を与えているのではないだろうか。
日本ではカトリックとプロテスタントの違いが分かる人もあまりいないが、本作をきっかけに少しはキリスト教や、キリスト教会のこうした問題が周知されることは望ましい。
