日経新聞の夕刊の「あすへの話題」というコラムに、元検事総長の但木敬一氏が法科大学院について書いている。法曹は勉強だけできればよいという風潮があり、世間の常識とズレている。こうした法曹を生み出さないためにも高等教育が重要だという。「世界に通用する法曹資格を得るためにも、法科大学院を修了した方がいい」と結論付けている。そこで、持ち出しているのが医学部の6年制である。医学部は全国で9000人の定員であり、また6年制は世界標準である。この6年制を短縮しろという議論は全くないという。これに比較すれば法科大学院はまだまだだという。


私はこの話に説得力を感じない。医学部は9000人の定員でも、志願者が多くレベルが下がらないのは、それに応じた需要があるためである。一生医者にかからない人はいないが、一生弁護士のお世話にならない人は大勢いる。日本には弁理士・社労士・司法書士・行政書士などの隣接法曹も多く、これで弁護士を2000人合格させているので供給過剰なのである。供給過剰なので、一人あたりの賃金は下がるわけで、そうした業界を目指す人が減るのは至極当然である。それに、医学部が6年制でも志願者が多く、短縮しろとの議論が出ないのは、それに見合うだけの給与が確保されているからで、法曹のように新規参入しても就職難な業界に、高い学費を支払って進学しようとするのは少数派であり、それゆえに法科大学院志願者数は減っているのである。それに、世界に通用する法曹資格というが、大半の弁護士は国内業務に従事するのであり、別に世界に通用する法曹資格である必要はない。必要があれば法学部卒業して弁護士になって、米国のロースクールでLL.Mでも取得すればいい。世間の常識とズレた法曹を生み出さないために、高等教育というのも不思議な話で、院生は学部生の延長で、社会と縁遠く、世間感覚とはややズレが生じる。また、修士ということもあって(法科大学院は法務博士)、プライドもやや高くなる人も珍しくない。世間感覚の弁護士を育てたいのであれば、早めに社会で働けるようにする方がいい。学部4年・院2年・司法修習1年、最短7年も学生をやっていた人の感性が並みの社会人と同じである確率は極めて低い。


学費の高い法科大学院ゆえ、司法修習前の段階で平均債務で340万円ほど、これに司法修習期間の貸与を加えれば500万円を超す。法科大学院が経済的な参入障壁と化しているのである。多様な人材を育成するという法科大学院は、皮肉にも自分自身が経済的な参入障壁となり、低所得層の法科大学院進学への道を封じている。社会人にとっても法曹資格取得のために法科大学院に2~3年も通うというのは信じられないほど困難な選択である。法科大学院を信奉する方は、高い理想ばかりを夢見て、現実の問題を直視できていない。