…はい。

 

なんつーかこう、『殻都市の夢』の完全版が発売されるらしい。

 

まずこの『殻都市の夢』についてなのだけれど、このサイトでこの文章を読んでいる人の中で、『殻都市の夢』を知らない人はいない…なんてことはなく、この作品を知らない人はそれなりに居るだろうと思う。

 

最近、『なるたる』がマガジンポケットに掲載されて、その結果として『なるたる』を読んで「あ?」と思って「なるたる 考察」とかで検索したような人が結構多いらしくて、特に僕の方では何もしていないのだけれど、今になってこのサイトに訪れている人がそれなりに居る様子があったりなかったりしている。

 

そのような場合だと『殻都市の夢』をまず知らないだろうから、その話からしていくことにする。

 

とはいってもそんなに難しい話もなくて、『なるたる』の連載の後に鬼頭先生は『ぼくらの』を連載していて、その時期に『マンガ・エロティクスF』という雑誌に短編を寄稿した結果、何故かそれが連載扱いになって、しばらくこの隔月の雑誌に『殻都市の夢』が連載されて、それが単行本全一巻として発売されていて、その完全版が今年の6月に発売されるという話らしい。

 

…。

 

今までの『殻都市の夢』は不完全だった…?

 

ってなことも思ってしまうけれども、まぁこのことについては商業的な問題だろうと個人的に思う。

 

どういうことかと言うと、鬼頭先生の連載作品はここ数年で新装版や完全版としての再販が結構されていて、『ぼくらの』より前の作品の場合、『辰柰1905〜トミコローツ戰記』と『終わりと始まりのマイルス』、『殻都市の夢』以外が全てそのような形で出版されている。

 

だから、『殻都市の夢』もそういった形で再販しようという話が持ち上がって、ただ、特に話題性のない『殻都市の夢』を再販するに際して、新装版と銘打ってもあまり注目度も高くないだろうし、ここは描き下ろしを新たに収録することによって、完全版という名前にして、新作描き下ろしという付加価値を付けて売りに出そうという判断があったのだろうと僕は思う。

 

『マンガ・エロティクスF』は太田出版の雑誌なのだけれど、この『完全版 殻都市の夢』は小学館から出版されるらしくて、数年前にあった『完全版 ぼくらの』も小学館で、まぁ諸々の企画が同じ感じで進められて、『完全版 ぼくらの』のやり方に倣って『完全版 殻都市の夢』があるという部分もあるだろうと思う。

 

『ぼくらの』の完全版の方にも新作の描き下ろしが付随していて、『殻都市の夢』にも同じように描き下ろしがあって、結局その辺りも、今回の企画も『ぼくらの』と同じ方向性で行きましょうという編集の一声や商業としての思惑があったのだろうと思う所もある。

 

鬼頭先生はその『殻都市の夢』の描き下ろし漫画については仄めかしをしていて、Xでその描き下ろし漫画の一部の下描きを公開していたりする。

 

(同上)

 

これが匂わせってやつなんですかね…?

 

僕はこれの背景を初めて見た時、実際、『殻都市の夢』みたいだなとは思っていて、ただ鬼頭先生自身が次の連載についての言及をしていて、このイラストについてはそっちの背景なのだろうと脳内で処理をしていた。

 

次の作品の背景に『殻都市の夢』みたいなサイバーパンク?な建物が出てくる場面があるのかなとなんとなしに思っていて、けれども、蓋を開けてみたらそのまんまストレートに『殻都市の夢』の建造物だったというのが今回の結末になる。

 

僕が言っている次の連載というのはこの投稿で言及されている話ですね。

 

 

 

この次の企画の背景として先の『殻都市の夢』みたいな背景のシーンがあるのかなと漠然と考えていたら、そんなことはなくて、ストレートに『殻都市の夢』だったという話です。

 

この鬼頭先生が語るところの『迷宮代理店』について、担当編集者の人と打ち合わせをしている様子がある。

 

 

このような言及があるのだから、この『迷宮代理人』の話がお流れにならない限り、次の連載はこのタイトルで、先に引用したおじさんと風船みたいなのが出てくる作品になるらしい。

 

まぁその投稿からだいぶ経っているし、色々時間も経てば変わるところがあるだろうので、タイトルとか細かい設定とかは連載時には変わってくるのかもしれない。

 

『殻都市の夢』に話を戻すと、鬼頭先生は何らかこの作品の描き下ろしをするらしくて、その内容については僕が何かを知っているということはない。

 

ただ、作品の構成上、付け足すなら"愛の物語"が一つ追加されるか、あのメインの二人のエピソードが描かれるか、愛を語る渉猟子の女性の愛の物語が語られるかのどれかにはなるのではないかと思う。

 

もっとも、そんなものはただの推量で、もっと違う形であるという可能性は普通に想定はしているけれども。

 

この『殻都市の夢』は無秩序に上に積み重ねられる街で全てが重ねられ埋もれていく中で、愛の物語は決して埋もれないというような話になっていて、聞いた物語を全て暗唱できる渉猟子という特殊な能力を持った女性が、この『殻都市の夢』の中で描かれた愛の物語を紡いでいくという構成になっている。

 

その中で、愛の物語の目撃者となった主人公と思しき二人の男女のうちの一人の女性と、語り部になった少女についての愛の物語が描かれていないから、描かれるならそこかな?と思う所はあって、ただそのようなことは根拠のない推論で、実際にどのような物語が追加で描かれるかは定かではない。

 

ちなみに、その渉猟子という、聞いた物語を全て暗記できる存在についてなのだけれど、どうも元は小説か映画なのかもしれないという話がある。

 

鬼頭先生はデビュー作?として『ヴァンデミエールの翼』という作品を描いていて、その材料に、レイ・ブラッドベリという小説家の『何かが道をやってくる』という作品の一部を用いているらしい。

 

僕は読んでないし、映画の方も見ていないから確かな事は言えないけれども、この小説の登場人物の名前がそのまま、『ヴァンデミエールの翼』の登場人物の名前に採用されていると僕は聞いている。

 

まぁそういう話を抜きにしても、鬼頭先生自身がインタビューで『ヴァンデミエールの翼』の材料にこの作品を使っていると普通に言っている。

 

「Q.「ヴァンデミエール」ができた経緯      

・お題が「アンドロイド」の創作アンソロジー同人誌を作ると友人が言い出し、その際にお前も描けと言われて考えたのが「ヴァンデミエール」。

言い出しっぺの友人は腰が重く自分は描かなかったのでアフタヌーンの投稿用に回した。

 「だから、その本が出来てたら今の自分はなかったっていう話ですね(笑)。怠慢のおかげで助けられたっていう人生、よく分かりませんけどね。」

・ヴァンデミエールはその時に他にも色んな話を考えたうちの一つ。

 ベースはブラッドベリの「何かが道をやってくる」(町に奇術団がやってきて、町の人たちの時間を切り取って行っちゃうというような話) と、昔あった「サントリーロイヤル」かなんかのCFが強烈に残っていて、その二つを引っ張ってきた。

 今まで他からネタを引っ張ってきて物語を構成するのはやった事がなかった。同人誌だからいいだろうと思った。

 この一本は自分としては珍しい作り方だった。

(http://sasasa.s206.xrea.com/narutaru/interview.html)」

 

こういう風に鬼頭先生は語っているのだから、鬼頭先生はブラッドベリの作品に間違いなく触れている。

 

そのブラッドベリの作品の中で、『殻都市の夢』の渉猟子のような存在が描かれているものがあるらしい。

 
ブラッドベリの作品の中に『華氏451』というそれがあって、この作品は本が全て禁止されたディストピアが舞台の小説で、それが故に本は存在していなくて、けれども、その禁じられた本の内容を暗唱して語り継いでいる人々が登場していると僕は聞いている。

この『華氏451』では本を持つということ自体が禁止されていて、本を持っているだけで逮捕されるという設定になっている。

 

『殻都市の夢』に出てくる少女は禁じられた本の内容を暗唱していて、『華氏451』についても禁じられた本を暗唱していて、そこまで類似していて、且つ、鬼頭先生はブラッドベリの他の作品を材料にして『ヴァンデミエールの翼』を描いているのだから、『殻都市の夢』の渉猟子に関しても、ブラッドベリの『華氏451』から来ているという可能性がある。
 
まぁ…本を何冊も暗唱していて、その事は一部の人にしか出来なくて、その事によって物語が失われないように紡いでいて、そしてその知識によって生命の危機に瀕しているという時点で、元は『華氏451』なのだろうとは思うのだけれど。
 
(鬼頭莫宏『殻都市の夢』 pp.160-162)
 

そうと言えども、僕は『華氏451』を読んだことも見たこともないので、詳しいことは分からない。

 

実際の所、同じブラッドベリの『何かが道をやってくる』についてもそうなのだけれど、『華氏451』に関しても、これらの作品は原作の小説と映画版とがあって、鬼頭先生が小説と映画版のどちらの作品に触れたのかとかもちょっと良く分からない。

 

 

 

その辺りは小説と映画を実際に確かめてみればもしかしたら分かったりするのかもとは思う反面、僕の方にそれを確かめようという気持ちが存在していない。

 

…こういう漫画の解説などの記事を書いていて、作業的に一番辛いときがどんな時かと言えば、それは一つの記事を作るのに6時間とか7時間とか、点検を含めて9時間以上とかの地道な作業を強いられる場面ではなくて、その漫画の解説に必要不可欠だからという理由で、興味のない本や作品を検証する時間で、耐えがたい苦痛がそこにある。

 

漫画の解説に必要だからとアリストテレスの『霊魂論』を読んだ時の苦痛とか、今思い出しただけで、うめき声が出そうな思いが込み上げてくる。

 

古代インドの日本語で書かれてても何言ってるか分からない『ブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッド』を読んだ時よりふっつーに苦痛が大きかったんだよなぁ…。

 

当然、ブラッドベリの『何かが道をやってくる』や『華氏451』についても僕には微塵の興味も秋毫ほどの関心も無いのだから、その検証作業は耐えがたい苦痛で、しかもそれをしたところで僕に何か得があるかと言えば一切ない。

 

それをしたいという気持ちが僕にはないし、その事をして金になるわけでもないわけで、それをしても賞賛が得られるわけでもなく、そもそも賞賛なんて求めていない。

 

だから当然、検証なんてしないのだけれど、この記事で書いた内容については、この地球上で鬼頭先生と担当編集の人がもしかしたら知っている可能性がある程度の話であって、僕がこの記事を作らない限り、おそらくは誰も知らないことであっただろうから、僕はそれを一つの記事にまとめただけ…というか、『完全版 殻都市の夢』が出版されるから、そのアナウンスの記事を一つ作るとして、そういえば、『殻都市の夢』と『華氏451』の関係性の話については何処にも書いたことも、誰にも話したこともないということを思い出して、その事をついでに書いたという以上の話はない。

 

『完全版 殻都市の夢』が発売されなければ僕が死ぬまでその情報は何処にも出ずに、結局誰にも見出されずに埋もれて行ったはずだということを考えると、そのこと自体が『殻都市の夢』を思い起こさせる出来事になって、なかなか抒情的ではある。

 

けれども、『完全版 殻都市の夢』が発売されることになって、僕が数年前に気付いていた先の情報をその事がきっかけに思い出したことによって、その事は埋もれずに、アメブロが死ぬまでネット上に残り続けることになったという話になる。

 

この記事自体は鬼頭先生とかがX上で『完全版 殻都市の夢』の発売を告知したその日に書いていて、準備期間0日だからそういう話です。

 

…僕はX上で画像投稿用アカウントでも本アカでも、鬼頭先生も鬼頭先生の担当編集者の人も、鬼頭先生作品関係のアカウントも一切フォローしてないから知らなかったのだけれど、『完全版 殻都市の夢』の出版が告知される前に、このような投稿がされていたらしい。

 

僕は今日、この投稿の存在のことを知ったから、この見切れたイラストが何なのかを思案する"いとま"とかはなかったわけだけれど、右のスカートは普通に見れば『殻都市の夢』の1話に出てくる少女だと分かるようなデザインになる。

 

(鬼頭莫宏『殻都市の夢』p.3)

 

(同上『殻都市の夢』表紙)

 

(https://twitter.com/boku_koemusi/status/1776200983321911459)

 

今日このイラストを見た瞬間にあの少女だとすぐに分かったわけだから、ありとあらゆる情報が秘匿された状態でこのイラストを見た時に、もしかしたら僕はこれが『殻都市の夢』のイラストだと分かったかもしれないなと思う一方で、そんなことは全て過ぎた後でのことで、全ての結果が明らかになった今になってあれこれ言っても、所詮は事後孔明(参考)に過ぎない話でしかないよなと思う。

 

最後に、鬼頭先生は『完全版 殻都市の夢』の出版に際して描き下ろし漫画を描いていたことに関連して、このような投稿をしていたりもする。

 

鬼頭先生はこのように、別作品についての何らかの作業をしているらしい。

 

語り口的にかつて描いた作品について、『殻都市の夢』と同じように何らか新たな描き下ろし漫画を構想しているのだろうという推論がある。

 

この条件に当てはまる鬼頭先生の作品は『辰柰1905〜トミコローツ戰記』と『終わりと始まりのマイルス』のどちらかくらいしかないのではないかと思う。

 

『なにかも違ってますか』も『のりりん』も打ち切り…いや、『のりりんは』打ち切りって公言してる一方で「なにもち」は実際打ち切りかどうかは知らないんだけど、そのような打ち切り作品の完全版はあるのか微妙で、それより後の作品は新装版や完全版にはまだ早いと思う。

 

一番可能性が高そうなのは雑誌が休刊したために今のところ全1巻で、単行本未収録分がある『終わりと始まりのマイルス』の話なのかな?と思う一方で、この作品の場合、鬼頭先生が語るようにネームに難航するとも個人的に思えなくて、一番ネームに難航しそうなのは「トミコローツ戦記」で、そう言った意味では「トミコローツ戦記」の完全版かな?とも思ったりもする。

 

 

「トミコローツ戦記」は入手がそれなりに難しいような作品で、今現在Amazonには中古で3冊しか存在しないらしい。

 

ただ、商業的な話だと一番売れそうなのは『のりりん』にはなって、その三つが可能性が高そうだとは思うとはいえ、予想が外れたらただ恥をかくだけなので、そのどれであるとも予想は立てないでおく。

 

そんな感じの『完全版 殻都市の夢』について。

 

この記事を書いたところで実際売り上げが上がるのかとかは知らないけれど、1人でも買えば、書かないよりは良かったという結果にはなるだろうと思う。

 

そんな感じです。

 

では。