2022年12月15日に、このブログに投稿した記事「諸々気になる新作映画」の中で、樋口真嗣 監督の新作を紹介しました。……と言っても具体的なものは無く、樋口真嗣 監督による「守秘義務の契約書にサインをしているので何も言えないが、幸せだと思うのは子供の頃に好きだったものを作らせて貰える事」というコメントのみを紹介し、「往年の作品のリメイク?」と書き添えただけでした。
その作品が遂に公式にアナウンスされました。1975年に劇場公開された東映映画『新幹線大爆破』のリブートです。
主演は草彅剛。……そうです、2006年に公開された『日本沈没』の監督&主演コンビが再度タッグを組む訳です。(この『日本沈没』自体が、小松左京 原作の小説の再映画化……と言うか、1973年公開の同名の東宝映画のリメイク)
1975年……大ヒットした『仁義なき戦い』シリーズも一旦完結し、実録ヤクザ映画ブームも一息ついた感のあった東映は、次なる活路としてハリウッド調の超大作の製作に乗り出します。
アメリカでは1972年の『ポセイドン・アドベンチャー』の大ヒット以降、パニック映画がブームがとなっており、1975年夏にはワーナー・ブラザースと20世紀フォックスの合作という空前の超大作『タワーリング・インフェルノ』の公開を控え、更にライバルの東宝も『日本沈没』『ノストラダムスの大予言』に続くパニック映画として『東京湾炎上』の製作を発表していた事もあり(加えて東宝の傍系の東京映画は、新幹線の脱線転覆を目論む犯罪を描いた清水一行 原作の小説『動脈列島』を映画化)、東映は『猛煙三十六階』若しくは『霞が関炎上』なる企画を立てます。その後、アメリカのTV映画『夜空の大空港』をヒントに、“時速80キロ以上で走行するとスイッチが入り、その後に時速80キロ以下に速度が落ちると爆発する爆弾を仕掛けられた、停まる事の出来ない新幹線”というアイディアが生まれ、『新幹線大爆破』へと結実する事になります。
主演は高倉健。当初は犯人役に菅原文太、新幹線指令室長役に高倉健、というキャスティング案があったそうですが、『昭和残侠伝』シリーズや『網走番外地』シリーズで、同じ様な役ばかり演じる事に飽きていた高倉健が犯人役を演じる事を熱望、出演料を半分にする事を条件に主役を得たと伝えられています。(高倉健は同年10月公開の『神戸国際ギャング』への主演を最後に、東映を退社しています)
関川秀雄 監督作品『大いなる旅路』『大いなる驀進』、瀬川昌治 監督作品『列車』シリーズ等の製作を通じて国鉄(現:JR)とは蜜月関係にあった東映でしたが、『新幹線大爆破』の撮影に関しては内容故に国鉄の協力を得られなかった為、走行中の新幹線の映像は国鉄敷地外からの撮影と精巧なミニチュアを使用した特殊撮影で対応。新幹線車内は、実際に国鉄に部品を納入していた日立製作所や東芝から同じ部品を購入して実物大セットを制作しています。(日立製作所と東芝は、後に国鉄から猛クレームを受けたとか)
新幹線指令室は、当時国鉄は国内向けには見学を禁止していたのですが、何故か海外からの見学者は受け入れていました。そこで東映は外国人エキストラをドイツの鉄道関係者に仕立て国鉄に見学を申請。美術スタッフが世話係や通訳と称して同行し、その美術スタッフが新幹線指令室内のディテールを徹底的に頭に叩き込み、再現したセットを撮影に使用しています。
1975年7月5日に東映邦画系劇場で公開された『新幹線大爆破』ですが、興行的には苦戦します。
『ずうとるび 前進!前進!大前進!!』(上映時間32分の短編)との2本立て上映でしたが、私の地元の名古屋市では第二週目の7月12日より前年12月に公開された『新 仁義なき戦い』を加えた三本立て上映に変更。また一部の劇場では7月5日公開の時点で『ずうとるび 前進!前進!大前進!!』に替わって1975年6月公開の『青春讃歌 暴力学園大革命』を上映していました。
結果的には『新幹線大爆破』は3週間で上映が終了し、7月26日より『ちびっ子レミと名犬カピより 家なき子』『グレートマジンガー対ゲッターロボG 空中大激突』『宇宙円盤大戦争』をメインとする〈東映まんがまつり〉が上映されています。(一部劇場では『悪魔の生首』『いれずみドラゴン 嵐の血斗』の、香港映画の日本語吹替版の2本立てを上映)
『新幹線大爆破』の予想外の不入りに、予定されていた森村誠一 原作『新幹線殺人事件』の映画化も中止になります。
皮肉にも『新幹線大爆破』の興行的不発を受けて、後に東映の看板になるシリーズの第1作『トラック野郎 御意見無用』の公開が繰り上がる事になるのです……
『新幹線大爆破』の興行的不発の原因は、映画の完成が公開直前で充分な宣伝が出来なかった事(国鉄は同作品を不快に思っており、駅構内でのポスターの掲示を拒否)、同時期公開のアメリカ映画『タワーリング・インフェルノ』との相乗効果を狙うも思惑が外れた事、長編の2本立て興行ではなかった為に地方都市では客足が鈍かった事……等が挙げられます。
しかし、ロードショー公開終了後に名画座で上映された『新幹線大爆破』は口コミで人気となり、立ち見が出る程の大盛況となります。
更に海外に輸出された『新幹線大爆破』は大ヒットを記録。特にフランスでは大変な評判を呼び、それを受けて1976年12月18日より一部東映邦画系劇場で『SUPER EXPRESS 109 新幹線大爆破/フランス語版』として凱旋上映される事になります。
(併映の『心に咲く花』は東映教育映画製作の29分の短編映画)
全編、高倉健や宇津井健や千葉真一がフランス語を喋り(勿論吹き替え)日本語字幕スーパーが付くというバージョン。回想シーンをカットし、上映時間がオリジナル版152分に対しフランス語版102分という、コンパクトな編集になっています。また海外版である事を強調する為か、チラシや広告等では「監督/ジュンヤ・サトウ 出演/ケン・タカクラ ソニー・チバ」とクレジットが片仮名表記になっていました。
『SUPER EXPRESS 109 新幹線大爆破/フランス語版』は、私の地元の名古屋市では翌年の1977年3月5日より洋画系劇場の「毎日地下劇場」で、前年12月に公開されたイタリア映画『課外授業』と2本立てで公開されています。
『新幹線大爆破』
1975年 日本 東映
【出演】
高倉健
千葉真一
宇津井健
山本圭
織田あきら
郷鍈治
竜雷太
宇津宮雅代
鈴木瑞穂
丹波哲郎
【監督】
佐藤純弥