ドン・ナカヤ・ニールセンと言えば、1986年10月9日に新日本プロレスが両国国技館で開催した「INOKI闘魂LIVE」で、当時は新日本プロレスのリングに上がっていたUWFの前田日明選手と対戦したアメリカのプロ空手の選手でした。


WKA USクルーザー級のチャンピオンであり、TV放送で実況を担当されていた古舘伊知郎さんによれば「等身大のベスト・キッドと呼ばれています」との事。同年10月18日より映画『ベスト・キッド2』の公開が控えていましたから、古舘さんが時事ネタを盛り込んだのでしょう。

(映画『ベスト・キッド』は、アメリカ人の少年ダニエルが空手を通じて成長する様を描いたドラマ)


当時の私は、ドン・ナカヤ・ニールセンの事は全く知りませんでした。WKAライトヘビー級に、ドン・ホシノ・ウィルソンという選手がいるのは知っていましたから、「似た名前の選手だなぁ」と思ったものです。


実は前田戦の2年前の1984年8月、デビュー目前の全日本プロレスの二代目タイガーマスクが、ロサンゼルスでキックボクシング・トレーニングを行った際に、スパーリング・パトーナーを務めたのがニールセンでした。東京スポーツ紙が取材をしていたと思います。

一説によれば、ジャイアント馬場さんはニールセンに「プロレスラーになる気があるなら連絡してくれ」と声をかけていたとか。


前田選手との対戦は激闘となり、第5ラウンドで敗れたものの試合内容は高く評価され、ニールセンは一躍時の人となりました。


当時のWKAはアメリカ国内では比較的小ぢんまりした会場で試合を行う事が多く、もしかするとニールセンは超満員の両国国技館の様な大会場で試合をするのは、初めてだったかもしれません。


この後ニールセンは、大阪城ホール、有明コロシアム、東京ドーム、と日本有数の大会場で試合を行なっており、これ正にプロ冥利に尽きるといった感じで、前田戦がニールセンの格闘技人生を大きく変えた事が分かります。


さて、その前田戦を前に某プロレス雑誌に掲載されたニールセンのプロフィールの中に「映画『カンフー・ブレードランナー』に出演」とありました。


物凄くB級臭を漂わせたタイトルですが、IMDbを調べても該当する作品はありません。

前田戦以前のニールセンの映画出演は、1984年の『処刑都市』のみ。この作品の原題は『FEAR CITY』であり『KUNG-FU BLADE RUNNER』とは似ても似つきません。

何処から『カンフー・ブレードランナー』に出演なんて話が出てきたのでしょう?


『処刑都市』のニールセンはノンクレジット出演なのですが、主役のトム・ベレンジャー演じるマットがプロボクシングの試合で死に至らしめてしまった対戦相手のキッド・リオを演じており、ストーリー上かなり重要な役でした。


「等身大のベスト・キッド」と、古舘さんが映画に擬えてニールセンを紹介しましたが、ニールセンは以下の4本の映画に出演しています。


『処刑都市』

FEAR CITY

1984年 アメリカ

日本劇場未公開 ビデオ発売

【出演】

トム・ベレンジャー

ビリー・ディー・ウィリアムス

メラニー・グリフィス

ジャック・スカリア

レイ・ドーン・チョン

【監督】

アベル・フェラーラ


『バーニング・ファイター』

BLOOD RING

1991年 アメリカ/香港/フィリピン

日本劇場未公開 ビデオ発売

【出演】

デル・アポロ・クック

ドン・ナカヤ・ニールセン

アンドレア・ラマッチ

スティーヴ・タータリア

ジム・ゲインズ

【監督】

アーヴィン・ジョンソン


『エターナル・フィスト』

ETERNAL FIST

1993年 アメリカ/香港/フィリピン

日本劇場未公開 ビデオ発売

【出演】

シンシア・カーン

デル・アポロ・クック

ドン・ナカヤ・ニールセン

グレッグ・ダグラス

ジム・ゲインズ

【監督】

アーヴィン・ジョンソン


『BLOOD RING 2』

1995年 アメリカ/香港/フィリピン

日本未公開

【出演】

デル・アポロ・クック

ピーター・ムーン

リサ・スティーヴンス

テッド・マークランド

ドン・ナカヤ・ニールセン

【監督】

アーヴィン・ジョンソン


デル・アポロ・クックは、キックボクシングやシュートボクシングで活躍したプロ格闘家です。試合でクックとニールセンは、少なくとも日本では対戦していませんから、映画とはいえ2人の対決はドリーム・マッチ的な印象もあります。


監督のアーヴィン・ジョンソンは、テディ・ペイジ、テッド・ジョンソン、テッド・ヘミングウェイ、と複数の名前を使い、アメリカ、イタリア、香港、フィリピンを股にかけ、映画を撮っていた人です。