大怪盗ロゼロの挑戦状

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それは突然の事だった。





いつもの昼下がり。


いつものように遅れた朝食を取る。

手慣れた様子で

いつものコッペパンを一口嚙り、

いつものブラックコーヒーを

二口飲み込む。




コッペパンにはコーヒーの

どっさりとした苦い香りが漂い、

コーヒーにはコッペパンの

甘ったるい砂糖の風味が漂う。



お互いがお互いを

助長し合い強調し合う様はまるで、

甲子園に出場している注目された

幼馴染のバッテリーのようだ。




これら2組にしか織りなす事の出来ない

究極のハーモニーが、

元々コーヒーの苦手なわたしの

口内で最高の交響曲を奏でてくれる。





刑事という手前、

砂糖やミルクをたくさん含んだ

物を食するのを見られたくない自分を

卑下するつもりはさらさらないが、

これも立派な職業病と言っても

過言では無いだろう。




いつもの職務卓にて、

手慣れた様子で

残りのコッペパンを

咀嚼している時の事だ。



突然、窓から1枚の手紙が

羽に深傷を負ったアゲハチョウのように

ヒラヒラと舞い込んで来た。





拝啓 『深愛なる吉川刑事へ』


翌日の朝焼け、6時定刻に

佳和先美術館の展示品、

『堕天使カエサルの像』を

頂きに参上する。


大怪盗ロゼロ


p.s.先日頂いた多摩野記念館の

竜のサファイアは10億円で買い取って

頂きました。

吉川刑事の月給と同じですね笑。


軽愚








ロゼロというのは

仮の名で、

毎回の犯行を6時丁度に遂行する事から

我々が彼を6時0分(ロクゼロ)と呼び、

やがてロゼロに相成った。





素性は既に知れ渡っている。

本名山西 圭伊二。39歳。

AB型、さそり座。

彼は数々の偽名を使いこなし、

国内外問わず世界中の美術品を巧みに

盗む大怪盗だ。



また、

彼の変装能力は

最早変装の領域を越えていて、

仮にわたしの変装を施したならば、

例えわたしの産みの親でも

本物のわたしが

どちらなのか絶対に見抜く事が

出来ないであろう。


その類稀なる変装能力で

この世のあらゆる刑事を

欺き、凌駕し続けている。




その巧みな犯行に

魅了される人も少なくはなく、

世界中に彼を支援する

会員制の団体がある程

その存在は大きくなっている。




わたしと彼との攻防は20年という長い

年月をもってしても、

エンドロールを流すことは無く、

私の顔に点在する無精髭や

無数の白髪が

その争いの長さを誇張していた。




わたしは彼をわたしのテリトリーである

モノクロの素早く動く快適なソファー。

そして、

角張った剛鉄の槍の倉庫のような、

地下に君臨する静寂の牙城に幽閉するまでは、

孫の笑顔を見ても

上手くは笑えないだろう。




また彼の名前がケイジだという

事実もわたしの

勘忍袋に針を刺し続けている。





わたしは彼の今までの行動パターンから

佳和先美術館に

既に潜んでいる可能性を考慮し、

すぐさま美術館の寄贈品の周辺に

警備員を配置し、

周辺を捜査させるよう催促した。





ロゼロが警察になりすまし、

美術館に侵入するのを未然に防ぐ為に、

最小限の部下を美術館の周辺に配置した。



頼れる後輩刑事の山西は、

今回はお休みだ。



前回の多摩野記念館で

その全体の指揮を執っていた山西が、

実は変装していたロゼロであり、

悠々と美術館を盗んで

いったのには一杯食わされた。





時刻は午後2時24分。

今夜は寝れそうにないので、

一足先に仮眠を取る事にしよう。



見慣れた事務所の壁掛け時計の秒針が、

いつもより進むのが遅いように感じた。




廊下では、

ロゼロが変装したのかもしれない

掃除のおばちゃんが

手慣れた様子で

せわしくモップをかけている。



いつも通りのコーヒーの最後の一口が、

いつもより苦く感じた。



ズィーヤ★🤞🏻