手記 〜レイカお嬢様〜

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執事のハーベルでございます。



わたくしがこの秋石家の執事になってから、もう10年が経ちます。


あんなに幼かった麗花お嬢様も、今ではお庭のチョウチョを走って捕まえる程、純真無垢と言いますか豪放磊落と言いますか、ともあれ健やかな女の子に育っております。



秋石家当代の秋石正道サマも娘の成長を遥か遠いお国(天国。などとは書きたくありません。)より見守って下さっている事と思います。



さて今回は、わたくしが当家にお仕えしている者として大変失礼な事ではありますが、麗花お嬢様の日頃の行動について、常軌を逸している(通常の6歳のお子様の行動基準から逸脱している。)事が多々ありますので、その内容を少し書き綴っておこうと思います。

来年には私立聖真里亞亞里真(せいまりあありま)小学校への進学を控えております事を考えての事であります。















まず




麗花お嬢様は、おヒゲが4メートルあります。

麗花お嬢様はそのおヒゲを自身の髪の毛と仰っていて、剃りたく無いのだそうです。
お風呂に入られる際も、自慢のおヒゲにシャンプーをしてからトリートメントを2回もする始末であります。本当の髪の毛など蔑ろにしていて、わたくしも手を焼いております。




そして、
麗花お嬢様はお庭の池の錦鯉(それは私が当家にお仕えする遥か前、正道サマが幼少の頃より飼っていると奥さまの晶子さまが仰っておりました。コイの寿命が30年以上あるなど信じ難いですが、他の錦鯉とは比べものにならない程大きく、炊きたての白米のような白を基調として、この世のすべての血液を凝縮したような円形の赤い斑点が数カ所。ヒレを使って左右に動く様はまるで閻魔大王が死人の行く先を裁かんとするばかり。)に自分と同じ「レイカ」という名前を付けているのであります。



この「レイカ(麗花お嬢様のことを呼び捨てしているようで解せないのですが、お嬢様がこの錦鯉のことをこのように呼べと仰るのでそう呼ばせていただきます。)」の振る舞いが少々粗悪なもので、

他のコイのエサを奪うのは当然で、
他のコイのキレイな模様(紅白なら赤い部分だけをめがけて)をつついて傷つけたり、
他のコイの上にのしかかりながら寝たり、
自分のフンを食べさせたりしているのです。



麗花お嬢様が「レイカ」の池での振る舞いに対して、自分を重ね合わせているのであれば、進学する小学校での振る舞いが先立たれて不安であります。


そうではなくとも、「レイカ」に対して自分のもう1人の自分(そういう人間でありたいと思っている自分)を投影してそう呼んでいるのだとしても本当に不安であります。


逆に、「レイカ」に対して卑下する気持ち(コイにもヒゲはありますが、オヤジギャグなどではありません。)でこのような人間になってはいけないという意味合いで自分の名を付けたのであれば、正道サマもお喜びになる事と思います。


しかし、わたくしには「レイカ」が池から放たれる事を願ってこのような振る舞いをしている。ようにも見えるのであります。



考えすぎでしょうか。



ある日はわたくしがエサをやりに行っても振り向きもせず、逆にエサに泥をまぶして食べられないようにしていたり、

また、ある日はお池から遠く離れたモミの木の下でマリーゴールドなどを見ながら日向ぼっこをしていたこともあったのです。

わたくしは大急ぎでお池に戻してあげましたが、「レイカ」は一切苦しい顔をする様子もなくわたくしを一瞥して池の中をグルグル回るのです。



麗花お嬢様が今後、どのような成長をされるのかわかりませんが、わたくしは麗花お嬢様が晶子さまのように品のある、美しく、つつましやかでそれでいてどこかしどけない、そんな女性になってほしいと思っております。




わたくしは、麗花お嬢様の成長を「レイカ」と一緒に末長く見守っていく次第であります。








ズィーヤ★