朝起きれば珍しくシズちゃん以外からプライベート用の携帯にメールが来ていた。

珍しく、なんて自分で言っていても悲しくなるが、仕方ない。俺友達いないしさ。……寂しい奴とか言うな、わかってるし。


「誰からかなぁ…」

とメールを見てみれば、予想以上に多い。紀田君や帝人君、新羅に運び屋やらいつもはメール等してこない奴らから来ていたし、あの四木さんからも来ていた。一体何事かと思い、一通メールを読んで気づく。


「俺、今日誕生日じゃん」

うわぁ馬鹿だ俺。自分の誕生日とかすっかり忘れてたよ。そうだ、そうじゃん。

他のメールを確かめてみるとやはり誕生日を祝ってくれるような内容ばかりで。今まで祝われるようなことなんてなかったから、酷く嬉しい。


と、そこで気づく。

「…シズちゃんから、来てない」


シズちゃんとは先日付き合いはじめたばかり。ずっと俺に片思いをしていたという彼は、付き合い始めてから、今まで喧嘩していた反動のようにとても優しくなった。
そんな彼だから、記念日とか大事にするタイプかなぁと思ってたのだけれど。意外にそうでもないらしい。
それか、うっかり携帯を壊してしまったとか。


俺の誕生日を、知らないのかもしれない。言わなかったし。新羅もドタチンもおおっぴらに祝うようなことはしてこなかったから。
むしろ何で紀田君やら帝人君やらが知ってるのか気になる。教えてないよね、俺。

いつも通り仕事をしながらメールに返信する。波江は、メールで今日は休むとの連絡があった。ついでに誕生日おめでとうとも。


今日は偶然にも池袋に行く用事は無く、昼ごろまでそんな感じに過ごしていた。


シズちゃんには連絡しなかった。…なんか祝って、と催促するみたいで嫌だったから。祝ってもらえたら嬉しいけど、祝ってもらえなくて悲しいわけではない。強がりじゃなくて、ただ誕生日なんていつも通りの日常だから。


ピーンポーン



チャイムの音で頭が現実に戻る。少し考え込んでしまっていたらしい。

ピーンポーン、ピーンポーン

少しいらついたように繰り返し鳴る音に、慌ててドアを開ける。

「はいはい、どちらさま…、…シズちゃん?」


「…………」

そこには、不機嫌そうにシズちゃんが立っていた。