俺とシズちゃんは付き合っている。
告白は高校のときにシズちゃんからだった。ずっと片想いで終わると思っていたこの恋が叶ったとき、俺は凄く幸せだった。
 
けれど今は。
 
 
そこまで考えて俺はようやく目を開けた。まだ夜明け前なので暗い。横には、暖かいシズちゃんの温もりがある。
昨日俺からお願いしてシズちゃんに泊めて貰った。もちろんやることはやって、甘い雰囲気の中眠りについた。……その時にシズちゃんの飲んだ水に睡眠薬を仕込んだから、ちょっとやそっとのことじゃ起きない、はず。
 
そっとベッドから抜け出し、床に投げ捨ててあった服を着る。寝る前にシャワー浴びて下着も変えたから、支障はない。
 
仕上げにコートを着て、鏡の前に立って気付く。あえて服から出るようにしてつけられた、赤い痕。
 
「……馬、鹿…っ」
 
 
自分の声が震えているのがわかった。
 
 
今は、考えてしまうのだ。シズちゃんの回りに誰もいなかったあの頃とは違う。今は、シズちゃんの回りにはたくさん人がいて、俺よりも、シズちゃんを幸せに出来そうな人がたくさん、いて。
むしろ、俺はシズちゃんが幸せになれそうなのに邪魔しているのではないかと思ってしまった。
 
俺は、シズちゃんを愛してる。だから幸せになって欲しい。
 
 
だから俺は、……この東京から出ることを決めた。もう、新幹線のチケットもとってあるからそれに乗れば、いいだけ。
俺の我が儘で、最後は一緒にいたかったから訪ねたんだ。
 
 
シズちゃんの家にあった俺のものを回収して、鞄に突っ込む。
そしてベッドに座ってシズちゃんの寝顔を眺める。
 
 
 
「……臨、也ぁ……」
 
寝言で呼ばれた声に泣きたくなった。シズちゃんの髪を撫でて、聞こえてないことはわかっていても、つぶやく。
 
「愛してるよ……、シズちゃん」
 
 
さようなら、ありがとう、ばいばい
 
 
俺は最後に唇にキスをしてでていった。
 
どうか、神様。シズちゃんが幸せになりますように………