前回
現代社会は『時間は過去から未来へ延びた一本の直線である』という固定観念にとらわれている。もしも、直線の時間だけを生きるつもりでいるならば、われわれの生活のあらゆる事柄がスケジュール表のようになってしまうだろう。
しかし、前回まで見てきたように、必ずしも直線の時間だけがわれわれの時間ではない。
過去の社会には『周期としての時間』『歴史としての時間』を重要視する人々もいたのである。
また、現代においても、実際には、直線だけの時間を生きている人間などというものは存在しない。なぜなら、サドゥグルも言っているように、われわれは肉体をもって現世の時間を経験するからだ。
数年前から、わが国でもマインドフルネス瞑想が注目されるようになった。おそらく、心が休まることがない現代人に、心の内面の世界を知るための方法として、瞑想が求められるのだろう。
今という時間を意識することが、瞑想の方法である。今この瞬間に集中するトレーニングをすることによって、雑念をなくす。雑念がなくなれば、脳の疲労が減る。
『何も考えない』ということはできなくても『よけいなことを考えない』ということはできる。
このマインドフルネスというのは、禅の思想を心理学で解釈したようなものだ。マインドフルネスの研究者が参照するのは、ブッダや道元などといった、わが国でも古くから馴染みのある修行者の言行である。アメリカで効果を立証された東洋の修養法が、忘れられたころに逆輸入されてきただけのことだ。
五分や十分ほど、ただ、時の流れを感じるだけのヒマをつくってみるだけでも、時間から解放されたような気分となるものである。
(令和三年八月十一日)