零戦搭乗員とマリオン・カール | 写真家・ノンフィクション作家「神立尚紀(こうだち・なおき)」のブログ ※禁無断転載

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 昭和49年5月に撮られたこの写真、見る人が見れば、誰が写っているかわかるだろう。いや、外人さんのほうはわからないかな?でも、その名を聞けば、おや、と思うに違いない。
 向かって左が、坂井三郎さん。
 向かって右は、マリオン・カール(海兵隊少将)。
 二人とも満面の笑顔だ。

 坂井三郎さんは、言わずと知れた零戦有名人である。戦後、福林正之が書き坂井三郎の名で出版された『坂井三郎空戦記録』、フレッド・サイトウが書きマーチン・ケイディンが脚色した『SAMURAI!!』、高城肇が書き坂井三郎名で出版された『大空のサムライ』がいずれもベストセラーになっていた。写真が撮られた時期は、ちょうど『天下一家の会』と深く関わっている。平成12年9月、歿。

 マリオン・カールは、その坂井氏が台南空時代の分隊長・笹井醇一中尉を撃墜したとされる米海兵隊のパイロットである。戦後は沖縄に駐留していたこともあり、意外と日本と縁が深かったらしい。

 坂井さんのどの本を読んでも、笹井中尉との、海兵出、操練出の垣根を越えた友情が話の柱の一つになっている。坂井さんの家の応接間に入ると、奥に鎮座する神棚に笹井中尉と本田二飛曹の遺影が置かれ、訪問者はまずそこで、手を合わせることとなっていた。某宗教団体の新聞記者が、「ウチは宗旨が違うので・・・・・・」と手を合わせることを渋って坂井さんに叩き出されたという話は、坂井さん本人から聞いた。

 ともあれ、この写真を見ると、何か拭いがたい違和感を感じる。

 「昨日の敵は今日の友」?・・・・・・にしても、敬愛する分隊長を殺したとされるグラマンF4Fの搭乗員と、こうも笑顔で握手ができるものなのだろうか。

 このときのことではないが、実質的な戦歴は坂井さんを遥かに超える角田和男さんは、零戦搭乗員の会合に出てきた「エース」と称する米搭乗員に、
 「エースだと?貴様、俺の仲間を何人殺したんだ。何をのこのこ日本に来たんだ」
 と詰め寄っている。

 また、大東亜戦争では坂井さんより長く、より強くなった米軍機と戦い戦果を収めた大原亮治さんは、「誰」が「誰」を撃墜したと決め付けたがる取材者や風潮に対し、不快の念を隠さない。
 「あんたがこの人を殺したって、そんなことを報せてきてどうする。嫌な気がするだけじゃないか。墜とさなければ自分が墜とされるんだよ」


 まあ、坂井さんもマリオン・カールも、いろんな思いを呑み込んだ上での握手なのだろうが・・・・・・。


 ちなみに二人が手に持つ軍艦旗の寄せ書きには、
 「日本零戦搭乗員会 代表 坂井三郎」の名がある。
 この時期、中野忠二郎大佐が会長を務める(旧)「零戦搭乗員会」という会があり、「日本零戦搭乗員会」というのはあくまで、坂井さんの対外的な箔づけに利用された実体のない会の名称である。
 「誰も何も言わないけれど、坂井さんのそういうところが嫌われた」
 という、元搭乗員の声もある。


 寄せ書きの下のほうには、叩き上げの下士官兵出身搭乗員数名の名前が見えるが、巨大ネズミ講組織『天下一家の会』東京事務所を務めていた甲飛12期(天下一家の会代表・内村健一と同期)Y・S氏の名前も見える。
 ネズミ講が社会的問題になりつつあり、現に坂井さんの勧誘で大損した戦友がいたりもして、ここにある名前の人のほとんどは、その後、坂井さんとは袂を別つ。

 当時の「零戦搭乗員会」は、新橋五丁目にあったY・S氏の会社に事務局を置いていたが、同事務所がネズミ講に使われていることがわかって、不名誉なトラブルを避けるためにY・S氏に事務局を返上させ、昭和53年2月、解散した。
 そして同年、新たに、相生高秀中佐を代表世話人に、全国組織として新生「零戦搭乗員会」が発足、これが現在のNPO法人「零戦の会」の基になっている。



 マリオン・カールはその後、1998年6月28日、オレゴン州の自宅で、押し入った強盗にショットガンで射殺された。妻・エドナを守ろうと盾になったとも伝えられる。マリオン・カールは82歳。19歳だった犯人はのちに死刑に処せられた。
 当時、日本の新聞にも、マリオン・カールの小さな訃報記事が載っている。


 昭和40年代、高城肇氏が書いた戦記読み物ふうに書くならば、戦闘機乗りのジンクス「撃墜王は畳の上では死ねない」・・・・・・を地で行くような、マリオン・カールの最期であった。
 あ、でも、アメリカ人はそもそも畳の上では暮らしてませんね。これを英語に翻訳したらどういう表現になるんだろう。








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