温泉がとりもつ縁。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 









【外信コラム】台湾有情




久しぶりに温泉につかりたくなったので、台北市北郊の北投温泉を訪ね、共同浴場の「瀧乃湯」で一風呂浴びてきた。

 日本統治時代からの伝統を持つ古い浴場で、手ぬぐいを頭に乗せて湯船で浪曲をうなっていると、地元のお年寄りから日本語で「『一本刀土俵入り』ですね」と話しかけられ、意気投合してしまった。

 この浴場前の川で、明治後期に発見されたのが、ラジウムなどを含む鉱物・北投石。後に同種の石が秋田県玉川温泉でも発見された縁から、今年8月、秋田県と台北市で「姉妹温泉」締結も行われた。

 日台共通の温泉文化を通じた交流が目的といい、4日からは玉川をはじめ、道後(愛媛)伊東(静岡)草津(群馬)湯田(山口)の各温泉地関係者ら約260人を招いた第10回温泉祭りも開催中だ。今回は台北松山空港と同じ「松山空港」を持つ縁から、道後と姉妹温泉を締結。松山のおみこしも披露された。

 台湾の作家、黄春明氏の代表作「さよなら・再見」は1970年代に日本でも翻訳出版され、台湾に買春ツアーに訪れた日本人客を郷里の温泉場に案内するハメになった通訳の男のコミカルな葛藤が衝撃的だったが、そんな時代が遠くなったことを日台双方のためにしみじみ喜びたい温泉日和だった。

                                     (吉村剛史)