世の中の変遷は表面は文化的な変化に見えますが、裏ではその時その時の経済事情が大きな役割りをしてゐる様に、一個人の生長変遷の裏にはその人の性格が大きな大きな役割をしてゐます。三つ子の魂百までもと古語は云って居ますが、本当にそうかも知れない。


 私は油繪の事は判らないが、あの地塗りが性格みたいなものじやないんですか、その地塗りの色の良し悪しが繪そのものの調子を出す根本のものじやないか、地塗りの色が悪いと、上に畫いた繪も美くしくないのでせう。


 或る日、私は眞坊と一緒に神田へ行きました。眞坊はスルガ台下から大学へ、私はそこから、神保町の古本屋街をウロウロ、九段下まで行きました。


 昔は、もっともっと古本屋が○くて、特に夜になるとスルガ台下から、救世軍本部にぬけるスズラン通りは、両側に夜店の古本屋がズラリと並んだものです、


 一册五銭か十銭で立派な本が買へたんです。今でも大切に持って居る楠方先生の英和袖珍辞典などは五銭だったんです、神田古本街は、私の古戰場です。


 本を探すことは疲れること、或る会社までたどり付いたのが丁度十二時、何か喰べさせなさいよ、懇意な社長さん、突然の訪問に驚いたり、喜んでもくれました。今日は何です?神田まで古本を買いに来ました。支那の兵書をね。もふ、今では賣ってないんですね、私の学生時代には隨分あったんだが。