忘却 | 抑鬱亭日乗

抑鬱亭日乗

複数の精神疾患を抱える者の独言を忌憚なく収録する
傾いた視線からこの世はどのように見えるのか

 時の流れなのか、忘却されたのか、事情を知らないのか、自然の摂理なのか。

 

 近所の墓地に戦没者の墓がある。

 その墓地の中では最も大きいため、階級の高い軍人の墓であると推測する。

 その墓はいつもピカピカで光を放つほど、手入れされていた。

 だが、最近、その様子が変わってきた。

 

 いつも光っていた墓石に黒い汚れが付着し、汚れが目立ち始めた。

 墓の手入れがされなくなったように思われる。

 

 おそらく、その軍人の墓は配偶者か兄弟、もしくはその子供が管理されていたのだろう。

 小生の祖父母は生きていれば今年、100歳を迎えていた。

 祖父は戦争に行っていたようだが、戦死せず生きて帰ってきた。

 祖母は度重なる空襲から逃れ、何とか生き延びた。近所には空襲で焼け死んだ御仁が少なくなかったという。

 二人とも、20歳で終戦を迎えた。

 

 あの戦没者の墓の手入れをしていたのが、配偶者であるとしたら、高齢で墓の掃除ができなくなったのかもしれない。

 兄弟が墓守をしていても、90代か100歳を超える。

 その戦没者に子供がいたと仮定すると、その人物も80代くらいと推測できる。

 いずれにしてもその故人を知る御仁は鬼籍に入っているか、間もなく入る年齢である。

 戦没者の墓を手入れしていた御仁も高齢となり、手入れが行き届かなくなってきた。

 

 遠からず、戦没者の墓も苔むすようになるのだろう。