川島さんは、いつも持ち歩いている小さなタンブラーで咽を潤すと、車いすのハンドリムに手を掛けて、竜児の方に向き直った。
「あなたはお人好しなんで、いいかもしれないけど、生理的に受け付けないの、私は」
「はっきり言うけど許せない......あのタイプは」
「許せないって?」
「真面目にやる事をバカにしてるし、抜け道を走ることばかり考えてる……フェアな生き方じゃないわ!」
「............」
「許せないって言うのはダメなの?」
「............」
「竜児さん、もういいでしょ......私、今日の分は十分喋ったし疲れたわ......」
そして彼女は上を見上げてつぶやいた......
「今日はいい天気ね、雲もほとんど無いし...」
「でも、今日は調子が悪いわ、消えたい......ここに居る間に消えてしまいたい......」
竜児はしばらく考えた後、夏空に浮かぶ、小さな雲を指さした。
「川島さん、ねえ見て!川島さんの苦しみは、僕なんかよりずっと大きいけど、大きな空に浮かんでる、あの小さな雲だと思えば……少しは楽になるんじゃない? そうでも思わないと……苦しくて、辛くて、やりきれないよ」
何故、こんなキザな事を彼女に言えたのかはわからない、ファームでの色々な価値観の人達との出会い、北の大地のおおらかな自然......それが竜児に言わせたのかも知れない。
「色々あるけど、とりあえず難しく考えすぎないで、今できそうな事を......」
「......私が今、出来そうな事って??」
「う、うん......たとえば......もう一度メイクしてみるとか......笑」
「そんな事......」
と、うつむきながらつぶやく彼女の表情は、少しだけ明るくなった気がした、いや、明るくなって欲しかったのだ......。
(つづく)




