ロシア・ソビエト文学全集24(平凡社):アルツィバーシェフ等 | 夜の旅と朝の夢

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【ロシア文学の深みを覗く】
第34回:『サーニン』他

ロシア・ソビエト文学全集〈第24〉アルツィバーシェフ等 (1964年)/平凡社

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今回紹介する本は、平凡社の『ロシア・ソビエト文学全集』の24巻目です。『ロシア・ソビエト文学全集』は全35巻ある叢書で、本ブログでは、ツルゲーネフの小説を収めた6巻7巻を既に紹介しています。

さて本書は、作者が異なる8篇の小説が収録されています。具体的には、以下の通り。

「サーニン」 アルツィバーシェフ
「赤い花」 ガルシン
「マカールの夢」 コロレンコ
「白いお母様」 ソログープ
「深淵」 アンドレーエフ
「生活の盃」 ブーニン
「静かな曙」 ザイチェフ
「生活の河」 クープリン

帝政ロシア末期頃の小説を集めたアンソロジーという感じですが、主要作品は「サーニン」で全体の2/3程度を占めています。

【サーニン】
ミハイル・ペトローヴィチ・アルツィバーシェフ(1878-1927)による1907年の長編小説。

田舎町の実家に戻ってきたサーニンは、快楽や幸福のために生きる刹那的な男。彼の目には、全ての因習は下らないものに映る。例えば、サーニンには、美人の妹がいるのだが、なんとその妹を一人の性的な魅力を持つ女性としてみるしまつである。

そんなサーニンが田舎町で平穏無事に生活できるわけはなく、周囲からは浮いてしまう。

一方、ユーリイもまた田舎町の実家に戻ってきていた。彼にもまた美しい妹がいるのが、ユーリイは妹を性的な目で見たりはしない。

ユーリイは本書のもう一人の主人公であり、サーニンとは正反対の人間。サーニンは、何事にも動じないが、ユーリイは迷いの中にいる。

サーニンは、人生に意味がないことを知っているし、そもそも人生に意味など求めない。ユーリイは、人生に意味を求め、例えば革命などに身を投じていた時期もあったのだが、革命を信じきることはできなかった。

迷いの中にいるユーリイにとってサーニンは、疎ましいと共に、達観した静かな目を持つ一種の憧れの存在だ。しかし、サーニンにとってユーリイはどこにでもいる愚かな人間としか映らない。

そんなサーニンとユーリイは田舎町でどのように過ごし、どのような結末を迎えるのか・・・

サーニンの個性が強烈な印象を残す。文庫化してもいいくらいの作品だと思う。

【赤い花】
以前紹介した『紅い花 他四篇』の「紅い花」と同じ小説のため省略。

【マカールの夢】
以前紹介した『悪い仲間/マカールの夢 他一篇』で紹介済みのため省略。

【深淵】
レオニド・アンドレーエフ(1871- 1919)による1902年の短編小説。

互いに愛し合う若い男女が森の中を歩いていると、暴漢に出会ってしまい・・・。というよくあるタイプの物語だが、ラストに救いがなさ過ぎる。

【生活の盃】
イヴァン・アレクセーエヴィチ・ブーニン(1870-1953)の短編小説。ちなみにブーニンはノーベル文学賞受賞者。

美しい女性とその女性を取り巻く男たち。結局、取り巻きの一人で金落ちの男がその女性を娶る。それから年が流れ、女性も取り巻きの男も年老い、人生の黄昏を迎えた。その間、彼らはどのように生きて、そして死んでゆくのか。切なさが胸に染み入る傑作。

【静かな曙】
ボリス・ザイチェフ(1881-1972)の短編小説。

病気で寝込むアレキセイを見舞う旧友の私。再会の喜びと在りし日の思いで話を咲かせる二人。しかし、私が夜に目覚めると、アレキセイは既に死んでいて・・・。大きな悲しみを受けるわけでもなく、静かに友と別れを告げる私。

【生活の河】
アレキサンドル・イヴァーノヴィッチ・クープリン(1870-1940)の短編小説。

自意識過剰で人を恐れる大学生の自殺を描いた短編小説。革命後の世界に合わないことを自覚した個人主義者の末路。

といった感じの8篇を収録。知名度が低く暗い基調の物語が多いけれども、傑作揃い。古書でしか手に入らないですが、値段は手頃でかなりお得な本だと思いますので、興味ある方は是非。「サーニン」だけでも読む価値大ですよ。

次回はベールイの予定です。