図表にこれらの新しい科学の成立を示す事績をクロニカルに示す。これらの成果は後のさらに豊富な発展に引き継がれる先導的なものであり、普遍的、体系的な知を引き出したという意味でまさに科学の名に値すると思われる。この一連の成果を「革命」と呼ぶことに抵抗があるかもしれないが、その後世への影響力の大きさや十卜十五年の短い期間に集中して成果が出揃ったことからも、革命の名にふさわしい巨大な知の地殻変動であったと思われる。もちろん図表に記された事績以外にも、科学技術の発明や発見はこの時期多くなされている。例えば戦争の帰趨を左右したと言われるレーダーの発明(一九三九年)、情報処理の物質的基盤を与えた半導体の発見(一九四七年)などである。ただし、これらは第二の科学革命の系列にある業績であり、第三の科学革命には含まれない。以下、順に第三の科学革命の成果を追ってみよう。


まず、すでに述べた制御である。蒸気機関を発明したワットは、水車の速度調節の仕方にヒントを得て、蒸気機関で動かす回転機の回転速度を一定に保つための速度制御器を発明した。これが近代的な制御の始まりとされている。ワットの速度制御器は、ハンチングと呼ばれる不規則な振動を起こしがちで、それが欠点とされていた。この問題を理論的に解析し、ハンチングを防止する設計法を与えたのが、電磁気学の基礎方程式で有名なマクスウェルである。マクスウェルによる理論解析は、生産にかかわる機器の振る舞いを数学的なモデルを用いて解析した初めての試みとして画期的である。時に日本で明治維新が起こった一八六七年である。


その後制御工学では、先に述べた巨大船の操舵や位置の遠隔通信などに使われたサーボ機構の設計方式が研究されたが、一九三〇年代には周波数領域における古典制御理論がヘイゼン、ナイキスト、ボードらによって確立される。制御工学の歴史について興味ある読者は、文献を参照されたい。戦争が生んだオペレーションズーリサーチ。不完全な情報に基づく意思決定の問題にひとつの解答を与えたのが、イギリス海軍の作戦研究(オベレーションズーリサーチ)である。第二次世界大戦の開始とともに、イギリスの海上輸送はドイツの潜水艦によって大きな打撃を受けるようになった。被害をなるべく少なくするために輸送船団の編成と護衛艦船の配備をどのようにすればよいかは、イギリスの生き残りにかかわる深刻な問題であった。


イギリス軍は物理学者や数学者を含む研究チームを作り、過去の被害の状況を詳細に検討し、ドイツ潜水艦の行動パターンを分析した。それに基づいて被害を最小にとどめるための船団の編成と護衛の方式を決定し、それを直ちに実施した。これは現代の言葉で言えば最適化である。船団の最適化が劇的な効果をもたらしたことを、戦争終了後発足したオペレーションズーリサーチ学会で、イギリス軍の担当者が報告していかにオペレーションズーリサーチはアメリカ軍でも大々的に取り入れられ、ある規模以上の部隊にはオペレーションズーリサーチの専門家を配備することが義務づけられたという。


ネットワークの問題については、配電、電信電話に関してすでに述べた。ネットワークの最も典型的な姿である電気回路については、すでに二十世紀の初めにマクスウェルが見つけた電磁場の基礎方程式が、「素子と結線」という人工物に適用して数学的に定式化されていた。この定式化は「入出力関係」という行動主義的なシステムの見方に立ち、通信工学の急速な進展を促した。ドイツの電気工学者ブリュンは、電気回路が実現出来る電流と電圧の関係は「正実関数」と呼ばれる数学的な概念と完全に一致していることを一九三二年に証明した。電気回路という技術の対象が、きわめて抽象的なひとつの数学概念と一致することを示したこの結果は、技術の論理的な側面が純粋数学と思いもかけない親和性をもっていることを示した点で意義深い。制御系の安定性を解析したマクスウェルの結果に次ぐ「数理工学」の成果である。