天使を見た記憶 いつか秒針のあう頃 D1 | 青のパラレルワールド物語

青のパラレルワールド物語

青さんが登場する空想小説を書きます。ご本人様とは一切関係ありません。
腐話もありますので苦手な方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

その日、私は二人の男の電話を受けた。

君の愛した男と、君を愛した男から。

 

二人は真逆のことを私に伝えてきた。

 

 

午前の外来が終わった12時過ぎ

医局で珈琲を淹れていた時に

その男は電話を掛けてきた。

 

「もしもし柳田ですが。」

「お久しぶりです、櫻井です。

その節は大変お世話になりました。

受診した病院で初期対応がよかったから

痕は残らないといわれました。

柳田先生のおかげです。」

 

その男は社交辞令だろうか、

私に礼を言ってきた。

 

「医師として当然のことを

しただけだから、

気にすることはない」

 

私は、

つい素気ない返事になる自分を

まだまだだなと、頭の中で反省する。

 

「柳田先生やメンバーから

色々言われて苛立っていましたが、

冷静になって考えれば、

大野の行動が少しわかってきました。

大野は、俺に迷惑をかけないように

何も言わずに

自分なりに考えて

行動したのではないかと。

ただその行動は間違いでしたが。

そしてかえって迷惑をかけていましたが・・。

なので、色々考えて、

俺は、

メンバー皆に贈ったという肖像画を貰ったら

大野と、はっきり決別しようと決めました。

柳田先生には、誤解から、

失礼な態度を取ってしまい

申し訳ありませんでした。

すべては大野が起こしたことなのですよね。」

 

この男にかかると、

事実はこうなるのか・・・

これで私に

謝罪しているつもりなのだろうか・・

何を考えたというのか・・

自分だけ、素知らぬ顔で

昔の彼女と復縁し、

結婚して子供を作り、

君のことなど

最初から何もないような顔をしている。

 

「それがいいだろうね、櫻井君。

君はもう妻帯者で子供もいる。

アイドルを卒業し、

キャスターで今後やっていくのであれば、

なぜ、大野君が描いた絵を

そんなにも欲しがる。

そんなものを手に入れる必要はないと思うが。」

「必要です。

おかしいでしょう?

俺にだけ無いというのは。

誰よりも先に

俺に寄越すのが彼の義務だったはず。

大丈夫ですよ、柳田先生。

絵だけ受け取れば、そのまま帰ります。

もう会うこともないです。」

 

当然のような言葉は

どこから出てくるんだろうか?

受け取る?

 

「櫻井君、君は大野君に会うのか?

よく、大野君が会うことを承諾したね。

いや、彼の居場所がよく突き止められたね。

彼は電話にも出ないだろう?」

 

この男を忘れるために、

静かに身を潜めている彼を

わざわざ訪ねるだと・・・

そんなにも大事なものなのか・・

その肖像画は。

いや違うこの男はプライドが大事なんだ。

 

あの時病院で彼のことを頼んだ時、

真剣な眼差しで

力強く頷いた男はもういない。

愛し合っていた二人に

回りは無慈悲で冷酷だった。

そして、今決定的な別れが待っている。

 

「それでいつ君は彼に会うのかい?」

 

言わないだろうと思った。

だがこの男は、

何の躊躇いも無く口にした。

 

「来週の火曜日、

仕事が調整できたので宮古島に行きます。

自分の母に大野の母と連絡を取って貰いました。

直接会って頼めば貰えるでしょうから。

それが一番手っ取り早い。」

「そうか、気を付けて。」

 

私はそういうのが精一杯だった。

本心は会えないことを願っていたから。