(前回からの続き)

 

 「保育所の災害があってからはな、女房には苦労をさせてしまった。あいつは、毎日現場に行って手をあわせていた。月命日には花を手向けていた。あとな、健康体操に行かなくなった。外出と言えば買い物と現場に行くくらいでな。あとは遺族会の人とたまに会っていたらしい。女房にとってこの町で暮らすことは針のむしろだったと思うんだ」

 「それはな、子供たちもそうだったと思うんだ。女房は時々連絡を取っていたらしいが、あれ以来子供たちが帰省したことはない。そして女房は体調を崩してあっけなく死んでしまった」

 

 「女房はな、保育所の判決が出た頃入院していたんだ。お見舞いに行くとな、俺の顔を見るたび『遺族会にお詫びしなさい。あなたが責任を持って賠償金を払いなさい。全然足りないけど、うちの田畑全部売り払って遺族会に渡しなさい』って言うんだ。入院していたのは大部屋だぞ。周りがみんな聞いている。でもな、聞こえるように言うんだ。Qが市長になってから亡くなったんだけどな、最後はQ市長の言うことを聞きなさい。聞けないなら議員を辞めなさいって言うんだ」

 

 「市を破綻させたのは市政刷新ネットワークだよ。俺は思うんだ、市をなくさないと、市政刷新ネットワークをこの町から排除することができなくなっていたんだな。それくらい市政刷新ネットワークはこの町に深く根を下ろしていたんだ。でも俺たちにはそんな自覚はなかった。選挙は毎回綱渡りで、だから根回しして無投票選挙にしたり、金を配ったりしていたんだ。マスコミが市政刷新ネットワークの味方をしてくれてSを批判してくれていたが、市民から支持されていないというは自覚はあった。だから落選したことは受け容れられる。でも、市が無くなったことはまだ受け容れられないんだ」

 

 そこまで言って山川さんは黙った。

 俺は山川さんの言うことが少しわかった。俺は、市政刷新ネットワークはノイジーマイノリティの集団に過ぎないと思っている。マイノリティは集団となって権利を主張しないと生き残れない。それは必要なことだ。

 だが市政刷新ネットワークは違う。この団体は自分の利益のために平等・公平という言葉を悪用するノイジーマイノリティなのだ。ではノイジーマイノリティに過ぎない市政刷新ネットワークが多数決で議会を支配できたのはなぜか。考えられるのは高齢化率40~50%という数値だ。そこに利権と裏金を集中させて票を作る。選挙の得票では過半数までは必要ない。数百票集めれば当選できる。そういう議員が集まって議会を支配した。市政刷新ネットワーク全員の得票を集めても市の人口の1/3程度でしかない。その1/3が市議会では過半数になる。

 そしてノイジーマイノリティが支配した町はなくなった。

 

 山川さんは、自分がマイノリティであることはわかっているようだ。だがノイジーマイノリティであったことに自覚はない。しかし、それを俺が言うのは残酷過ぎるだろう。