地元の町で期日前投票を済ませると、知り合いが「投票用紙に印は付けたかい」と言う。何のことかわからなかったが、とりあえず話を合わせて「いつものように」と返すと満面の笑みであった。

 

 実家に寄った時父に「投票用紙に印」について聞いてみた。こういうことらしい。

 

 たとえば現金を渡した時、投票用紙の右上に「´」と印を付けなさいと言うんだ。もちろんそれを開票時に確認することはできない。だがな、裏切ることへの抑止力にはなる。さらに選挙が終わってからこういうんだ。

 「この地区では、協力してくれた人と印を付けてくれた人の数が合わない」

 

 見ているんだぞという圧力だ。脅しだな。そして、裏切り者がいる地区の要望は実現できない、予算は回せないとも言う。

 昔々は選挙後、本当に投票用紙を確認したこともあったらしい。議員の横暴だな。だが、今はそれはないと思う。

 でも、印を付けなさいと言えば、今でも確認しているんだぞと支援者に思わせることができる。そうやって票を確保するんだ。

 

 ただな、これは市政刷新ネットワークだけがやっていることではないらしい。

 田舎の選挙ではよくある手法と聞いたことがある。今は国政だって小選挙区だからな、一つの投票所当たりの投票人数は少ない。開票後の投票用紙を議員が確認するなんてことはできないが、そう思わせることは可能なんだ。

 

 そうか…、俺は市政刷新ネットワークの立候補者には投票してない。だが「印を付けたかい」「いつものように」と答えたことで、選挙管理委員のおじさんは山川さんに、俺が市政刷新ネットワークの候補者に投票したと報告するだろう。これは秘密を共有する者同士の符号でもあるようだ。咄嗟にいつものようにと答えたことで、俺の裏切りはバレなかったというオチになる。

 

 この町では「選挙管理」の意味がちょっと違うみたいだ。

 議会の掟映画版のシナリオに組み込もう。

 Sがこの町で何と戦ってきたのか、映画を通じて世間に知らせるのだ。