Sの市長としての任期は4年目に入っている。

 誰がどう説得したのかはわからないが、市政刷新ネットワークから市長選に立候補する人が決まった。まだ50代の人だ。

 市長選への立候補者が決まって、市政刷新ネットワークの今後の戦略は明確になった。「時間稼ぎ」だ。市長の提案をつぶすまで頑張らなくてよい。とにかく反対する、反対する過程で市長のイメージを悪くする。そして、市長選に勝って新しい市長が市政刷新ネットワークへの利権誘導を進める。そういうシナリオだ。

 

 それにしても…と俺は思う。

 市政刷新ネットワークは俺以外全員60歳以上である。さらに言えば半分以上が70歳をこえていて、75歳以上、つまり後期高齢者に該当する人が代表や最年長議員として権力の座にある。

 まず思うのは、この人たちはなぜ権力にしがみ続けるのか、手放そうとしないのかである。長生きすることにこだわる、70歳をこえてもまだ若いと自称するのは個人の価値観としては構わない。しかし、この人たちが市の赤字を作り、富を独占し、格差を広げたのは事実である。さらに言えば、若い人たちがこの町で学ぶこと、働くことの阻害要因にもなっている。田舎暮らしを求めるリモートワーカーがこの町に移住することや、一度町を出た人がこの町に戻ってくることを邪魔することもある。

 そんな人々が、次の市長選で自分の言うことを聞く市長を担ぎ、自らも市議選で当選する気満々なのである。

 

 市政刷新ネットワークの人々を見て数年経過し、俺には一つ見えてきたことがある。彼らの弱点である。

 彼らには後継者がいない。

 身内に地盤を継いで市議会議員になろうとする人がいない。

 それぞれがオーナーを勤める企業の部下にも、そういう人はいない。

 自分の後継者がいないという事実に気づいていないのだ。

 

 市政刷新ネットワークの支持者は彼らと同世代の人が中心だ。そのココロは「地縁でつながっている最後の世代」である。あとは「公金チューチューの共犯者」と「5,000円で票を売買するという経済状況・倫理観の持ち主」になる。

 次回の市長選・市議選では、これに「反市長・Sが気に食わない」という人が加わることになる。それが市政刷新ネットワークの票読みである。

 それで勝てるかどうかはやってみないとわからない。しかし、次の次の選挙では、確実に勝てないはずだ。

 

 そう、実は市民にも戦略があるのだ。それは「時間稼ぎ」だ。

 市政刷新ネットワークの所属者の半分はすでに70歳をこえている。後継者がいない市政刷新ネットワークは時間と共に滅びることになる。

 今の若者は平成の大合併後に誕生している。生まれた時から「市」なのである。したがって旧5町意識は弱い。地縁の意識も弱い。議員との個人的つながりもない。5,000円で票を買おうとすればネットにアップするだろう。

  

 市民はその時を待っている。

 その時、Sが市長として立候補したように、若い世代・市政刷新ネットワークと関係のない人間が市長・議員になることを望んでいるのではないか。

 

 ただ、この場合にも最悪のシナリオがないわけでもない。 

 誰も市長選・市議選に立候補しないことだ。市政刷新ネットワークの姿を見て、若い世代がふるさとの町への思いをもたなくなっている可能性だ。

 その時、この町の人口減少はさらに加速するだろう。それを止めることができるのは市長となったSだけだ。市政刷新ネットワークの影響力をこの町から一刻も早く排除しなければ、若い世代はこの町に愛想をつかすだろう。