夕方の6時過ぎに特調班が帰署した。

1号事案は、古賀班が担当することになっており、「おつかれ。どうだった?」と問いかけた鈴木の机の横に、自分の椅子を移動させた古賀が腰を下ろした。

「ばっちりです。」とニコニコしながら古賀が答えると、鈴木は一番若い岩本に向かって、会議室を抑えるよう指示しながら、財布から千円札を取り出して岩本に渡した。

 

鈴木と岩本以外の特調班3人は、会議室に移動した。鈴木は、手に缶コーヒーやコーラを抱えた岩本から缶コーヒーとお釣りを受け取ると、「で、何があった?」と改めて古賀に問いかけた。

 

古賀は、調査用のピンクのファイルを開き、それに記載したメモを見ながら、今日一日の調査の状況を説明した。

 

調査の内容は、受注工作資金を捻出するため、架空の外注費と人件費を計上していたというものであった。そこで捻出した資金は、現金でゼネコン側にバックされていると想定できるが、明らかな証拠がないため、調査法人が税金をかぶる(負担する)ことになる。

架空外注費は

①     通常の支払は手形と現金が7対3である。

②     支払予定表でその割合になっていない先が5社ある。

③     その数社の欄外には鉛筆書きで数字が記載されている。

④     支払金額からその鉛筆書きの数字を現金額から差し引いくと、割合は手形7割現金3割となる。

つまり、正当な外注費100に架空の外注費50上乗せして支払う場合。

手形70 現金80 欄外メモ50 となる。

現金80は、いったん外注先の銀行口座に振込み、後日現金で50を回収する。

というものである。

 

架空人件費は、

①     賃金台帳で毎月同額賃金の者が3名いる。

②     この3名は出面帳(でづらちょう:出勤簿)で毎日同数の出勤日数となっている。

③     タイムカードでは毎日同時刻に出勤・退勤となっている。

④     現場責任者の時刻がこの3名と全く同じである。

⑤     ゼネコンが主催した安全講習にこの3名は参加していない。

典型的な架空人件費である。

 

 鈴木は、朝一で3人の課税照会を市役所で行ってから調査法人へ行くよう、古賀に指示した。

 今年で博多署の特調が2年目の藤岡班(藤岡武上席と井原太一調査官)には、外注先5社の反面調査に行って、架空分の出金がどうなっているか確認してくるよう指示し、この日はこれで帰宅した。