バブル崩壊

 

 

奈菜が逝って間もなくバブルが崩壊した。

「魚八」の営業には全く影響はなかった。しかし、奈菜の死から聖一は人が変わった。店には全く出なくなった。すべて従業員任せだ。毎晩のように読み歩き、金銭感覚もマヒしていた。飲み仲間から誘われると、どこにでも付いて行った。顔色はどす黒くなり、明らかに肝臓がやられている。

 

そんなある日の昼過ぎ、自宅に従業員の清水加寿子がやってきた。清水は、1号店(吉塚店)オープンの時の最初のアルバイトだ。大学卒業後、そのままエイトに就職し、今ではエイトの総務・人事を任されている。

 

清水は、リビングのソファーに腰掛けると、聖一に向かって「社長。いい加減に店に出てください。みんな心配しています。」と、強い口調で言った。

言われた聖一は「あぁ、分かった。」とだけ言った。

「絶対ですよ。絶対来てくださいね。本当にみんな心配していますから。」と、清水がまた強い口調で言った。

それには返答せずに、コーヒーを入れようとソファーから立ち上がろうとした瞬間、その場に聖一は倒れた。

 

ベッドの上で目を覚ますと、丸椅子に不動産屋の土田健三が腰掛けていた。

「おっ目が覚めたか。飲みすぎだぞ。社長のくせして、従業員に心配かけるな。」と健三から言われた。

聖一は、「どうして、健ちゃんがここに。」と、不思議そうな顔をして聞いてきた。

「聖に用事があって、家を訪ねたら、ちょうど救急車が来て、そのまま加寿子ちゃんと救急車でここに来た。聖が単なる飲みすぎによる疲労と分かったら、加寿子ちゃんは鬼の形相で帰ったよ。」と、健三が話すと。

「迷惑かけたな。ありがとう。で、用事って何。」と聖一は健三に問いかけた。

 

健三は、土田不動産は以前から不動産仲介業をメインで行っていたが、高値で取引される土地・建物売買を仲介するうちに、土田の父親が土地・建物売買に手を出してしまい、保有していた土地の価格が下落し、今では二束三文の土地と多額の銀行借入金が残り、挙句の果てに父親が逃げてしまった事を聖一に話した。

 

「健ちゃんは、どうしたい。」と、聖一は健三に尋ねた。「顧問の税理士に相談したけど、報酬が払えないのが目に見えているから、取り合ってくれない。そこで、頭がいい聖に相談に来たけどこんな状況だから。」と言う健三に対して、「だから、健ちゃんはどうしたいんだ。」と、聖一は苛立ちを隠さないまま強い口調で言った。

 

「倒産するのは仕方ないけど、管理物件が何棟かあるので、オナーに迷惑はかけたくない。だから、何とか仕事は続けたいと思っている。なにかいい考えはないか聞かせてほしい。」と、聖一の眼をしっかり見据えて健三は答えた。

「分かった。明日までに考えておく。その代わり、タバコくれ。」と聖一が言うと、健三は、「ショッポ(ショートホープ)でいいか。」と言いながら、ベッドから起き上がろうとする聖一に手を貸した。

聖一は、点滴の台を引きずりながら、健三と屋上の喫煙所に歩いて行った。

 

「おはよう。早いな。」と、病室に入ってきた健三に聖一が言うと。健三は、手にした聖一愛用のマールボロを見せながら、「おはよう。いいアイデアは浮かんだ。」と、聞いてきた。

 

「分かった。ありがとう。」と、健三は言いながら、聞いたことを書き記したノートを閉じ、ボールペンを胸のポケットにさした。

 

二人は、屋上でタバコを吸いながら、売店で買った缶コーヒーを飲んだ。聖一は、日頃の不摂生から栄養不足となり、しばらく入院することになっている。

 

「なんだかワクワクしてきた。」という健三に「健ちゃんなら、大丈夫。」と言いながら、聖一は健三の胸をこぶしで軽く突いた。

 

結局、個人事業で行っていた土田不動産は破産した。土田家は全財産を処分したが、それでも多額の借金は残った。それは全て父親の借金であり、健三には無関係である。父親の行方が分かり次第、破産宣告させる準備はしている。

 

健三は個人で不動産業を創めた。単純な話である。

 

 

バブル期には、不動産売買の代金決済は銀行で行われるケースが多かった。その現金のやり取りを目の当たりにした強欲な銀行員が、自ら宅地建物取引者の資格を取り、銀行を辞めて不動産事業に乗り出して失敗するケースが多かった。

不動産業の税務調査は数件行ったが、私の場合はすべてマンションの建売業者でした。この頃は、ワンルームマンションを全国紙で数百万円の費用で新聞広告に出すと、即日完売だったことを覚えています。調査を行った会社は、すべて倒産していますが、一番の思い出が、別の案件の署長説明で、署長室にいる時、ある大物OB税理士が、署長を訪ねてきました。別室で署長が面談し戻ってきて、「山下に合わせろ。首にしろ。すごい剣幕だった。」と、笑いながら言いました。

その税理士の息子の会社を私が主担で調査していたからです。その会社の調査が終わった時の署長説明では、「山下君に謝ってくれ。」と、その税理士が署長に言ってきたとの話がありました。信じていた息子が、親に隠れて多額の不正計算を行っており、親としては自分の顔に泥を塗られたという心境だったみたいです。

 

また、別の不動産業者は、隣り合わせで2棟を建てたにもかかわらず、1棟を架空の会社名義で建設販売していたという事案がありました。これを見つけた端緒が、焼却炉に残されていた燃えカスからでした。私がこの話をしても誰も「そんな馬鹿なことはないだろう」と、取り合ってもらえませんでしたが、調査が進むうちに間違いないとなり、結局その通りでした。今でこそ焼却炉はありませんが、当時はパチンコ屋は当然として、税務署にもあり、調査において焼却炉の確認は当然のことでした。

 

健三の不動産屋は、十数年後に破産することになることを、この時の二人は知らない。

聖一は、退院後はまじめに働きだした。夜の飲み歩きは、前ほどではなくなったが、止めることはなかった。

 

 

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