これまで、よいアイディアやビジネスプランが、資金調達力を増す話をしてきたが、今回から資金調達の定番である寄付金問題を考える。


誰もがいうのが、「日本は個人の寄付が少ない。個人の寄付減税が少ないためで、税制を改めれば増える」。現在、NPOで寄付減税対象団体は三十数団体にすぎず、2万以上もあるNPOで、これじゃ個人寄付は増えないというのだ。
英米では、寄付減税対象団体は、数十万もあるので、日本と英米寄付格差は、これだ ! と誰でも思う。


ところが変化が訪れる。来年度の税制改革で、寄付減税のNPOが増え(範囲の拡大)、再来年度には、減税額が拡大(額の拡大)が検討されているらしい。そうなると、非営利法人の資金調達源として、英米なみに、いよいよ個人寄付が主流になる時代が来る感じもするが、そんな単純なことではないのだ。


寄付が増えるには、こんな条件が必要である。
1、納税と寄付は逆相関の関係なので、減税になると寄付が増える。
 ジョンズホプキンズ大学のレスター・サラモン教授が唱えてる説で、80年代の先進国の非営利法人を研究して、この説をつくった。80年代は、小さな政府が進み、反対に減税がさかんに行われたときで、パラレルに個人寄付が増えた。


 サラモンの説は、私たちは、社会のためにカネを出すとき、納税か寄付かの 二者択一をやってるというのだが、わかりやすい説で、寄付をする理由を明快に説明している。


 この説では、日本は、財政赤字の解消と借金返済のために、来年度から増税 時代に入るので、寄付は増えないことになる。それでも寄付減税の範囲を拡大し、さらに額を増やすのは、時流に乗った政策をやるためで、 減税範囲や額を拡大するといっても、増税時代には自ずから限度があり、英米なみになるのは残念だが期待できない。


 この増税時代の10年は、個人寄付が増えるための、下地(制度や思潮)づくりの10年間ではないのか。


2,個人の寄付が増えれば、寄付は増える
 アメリカでは寄付の7割は個人、日本は5%、日本では個人寄付は有望。
 日本は、個人金融資産大国なので、制度がうまく設計できると(例えば、アメリカのように個人財団、助成財団が栄えるようなこと)、寄付減税効果は強烈に働く。


 もう10年以上も前のことだが、日経金融新聞に、アメリカの個人財団(金持ちが、自分の財産を財団に移し、死後、家族を養ったり、公益のために使う財団)の話を書き、日本でも学ぶべきだと書いたところ、即座にアメリカの金融機関の日本法人から電話があり、「その制度は日本でも必要だ。実現のために話し合いたい」ときた。彼らの関心は、基金の運用であるが、なるほど、目をつけてるのかと思ったことがある。


 個人の寄付を増やすには、こうした仕掛けが必要、今、新金融技術がアメリ カから輸入されているので、ついでに、こういうのもやればいいのにと思う。


3、所得が増えると寄付が増える
 当たり前の説であるが、これから景気が回復し、個人所得が増える時代が来 るので、寄付が増える時代になりそうだが、寄付の所得弾性値(所得が増えると、寄付はどのくらい増えるかの値)は、アメリカは日本の3倍も高く、増え方が違う。


 寄付の所得弾性値を上げる政策(寄付減税、個人財団のようなもの)もパラ レルに必要であるが、この辺りがまだ不十分。


4、寄付文化があると寄付は増える
 日本では、社会サービスは、行政が独占しており(明治以来の公益国家独占 時代)、個人主導の社会活動が少なかったせいで、寄付が少ないのは、国民性。。。というような話じゃない。
 日本だって公益国家独占になる前は、寄付文化はふんだんにあり、世界有数 の寄付社会だった。


 寄付文化がなかったのは、それが必要なかっただけのことで、阪神大震災、 新潟県中越地震、スマトラ沖大地震のような大事件が起こると寄付が増えた。 ウォールストリート・ジャーナルは、この事態をみて、「日本は寄付の新時代を迎えた」と驚いたぐらいで、寄付文化は眠ってるだけ、もう目覚める時期にきている。社会起業を提唱してるのも、目覚まし時計づくりである。


5、寄付を増やすにはマーケティングが必要
 寄付を増やすには、「寄付向け商品」の開発が必要である。あるNPOが、寄付減税団体に指定された。そこで、代表に「寄付は増えましたか」と聞いたところ、「増えない」だった。
 指定されただけではだめで、寄付をしたくなるような具体的な商品が見えなくてはいけない。呼びこみ策で、企業の製品開発と同じで、こういう感性も今は欠けている。


このように、個人の寄付を増やすには、寄付減税だけでなく、やるべきことがたくさんある。