出征前の日本陸軍中隊を舞台とした
日本の組織&日本人あるあるだらけの傑作。
著者自身の軍隊体験をもとに書かれ発売されたのは1952年
70年経っても日本は今もそのまんま
いやいや、悪化してますっていう。

兵営ハ条文ト柵ニトリマカレタ一丁四方ノ空間ニシテ
強力ナ圧力ニヨリツクラレタ抽象的社会デアル。
人間ハコノナカニアッテ人間ノ要素ヲ取リ去ラレテ兵隊ニナル
たしかに兵営には空気がないのだ
それは強力な力によってとりさられている
いやそれは真空管というよりも、むしろ真空管をこさえあげるところだ。
真空地帯だ。
ひとはそのなかで、ある一定の自然と社会とをうばいとられて、ついには兵隊になる。
曽田は毎日一丁四方のなかをぐるぐるあるくのだ。
そこには山もないし、海もない。
しかしそこには、女がなく父母兄弟がない……そしてその代りに人工的な山や海があり…
(…)これは一つの強制せられた社会である。
そこではまた起床後より夕食時限までは寝台上に横たわることを許されないが
これは人間の自然をうばい去ることである。(P.284-285)

兵卒にはワタクシの意志の生きる余地はぜんぜん残されていない。
つまり自由の空気は完全にぬきとられているのである。(解説・P.602)

所属する会社が共同体として機能したのも今は昔
性欲と、一人でいる閑暇の果てに、何とかこさえた家庭も数年ともたず。
条文ならぬネット言葉と、柵ならぬ社会に閉じ込められ
ワタクシの意志で生きる余地など何もない暗黒の現代生活を送らされ
常にうつむいて歩くウォーキングデッド、まさに生ける屍となった現代日本人。