ヒエログリフは、「イデオグラム」(≒表意文字)と「フォノグラム」(≒表音文字)に、大別される。
上代の漢字用法と似ていて、一つの文字が、前者としても用いられ、後者としても用いられる。
さらに、前者は、いわゆる「限定符」として用いられる場合も多い。上代の漢字用法においては、
限定符と見られるものは少ない。古事記の「和迩魚」や「入鹿魚」の「魚」が、これに当たるはず。
また、後者は、朝鮮半島の吏読に見られるような「音声補助」として用いられることが少なくない。
日本における「音声補助」の万葉仮名は、私は、見たことがない。いわゆる宣命体は用法が違う。
このほか、「❙」は、「それ自体」というような意味で、「イデオグラム」に添えられる。限定する意だ。
#ちなみに…「入鹿」(イルカ)において、「入」(イル)と「鹿」(カ)は、(※「イルカ」(青)は「西」を含意)
#それぞれ、二音節を担う訓仮名、一音節を担う訓仮名、であって, (※「借訓表記」とも言う)
#主に「フォノグラム」として機能している。ところが、「入」の文字は、
#それ自体が「西」を含意する。つまり、表意兼帯の訓仮名、である。
#「鹿」(カ)も、ここでは表意兼帯…しかし、その説明は今回は省略。
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さて、漢字の「山」に似た形のヒエログリフは、この一文字に、末尾の音声を示す「t」,
および、上述の「❙」が添えられ、「ḫՅst」と読まれる。「Յ」は「アレフ」に当たる文字だ。
「ḫՅst」は、子音対なので、母音を補って読まなければならない。しかし、母音は不明。
音声補助の文字が、同時に意味を補助している場合も有り、此処では、補助の「t」は、
「tՅ」(国)を表すかもしれない。意味が、「山岳の国, 外国, 砂漠」、と載っているからだ。
この「山」に似た形のヒエログリフは、「外国」を意味する。こういう訳で、限定符として,
様々な国名の後ろに付けられる(ことが多い)。例えば、「ヒッタイト」(ハッティ)の場合、
フォノグラムの「ḫt」だけでなく、綴りの最後(つまり一番右)に、この限定符が置かれる。
そこで、今回の問題。上述の「ḫt」と「山」(外国)の間に挟まれた残りの二文字は、何か。
その二文字とは、ガーディナーのサインリストの「U30」(?)と「G4」(鳥のノスリ)、である。
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ひとつ気づかれることがある。西村洋子『古代エジプト語 基本単語集』において,
「U30」が用いられる単語(5つ)が拾われている。その5つの単語について言えば、
全てにおいて、「U30」の後ろに「G4」を伴っている…これは、偶然では有り得ない。
・「G4」(ノスリ)は、三子音文字の「tyw」として用いられる。
・おそらく「tyw」という語の意味もあるはずだが、それは調査中。
・日本の「鵟」(ノスリ)は、「鷹」のように使えないため、「クソトビ」と呼ばれた。
・つまり、日本では、「鵟」(ノスリ)は、「鵄」(トビ)の一種と捉えられたいた。
・【DY十A】(鵄、527)や【DYW】(dēw、32)に注目すべきか。
とにかく、ヒエログリフの「U30」と「G4」は、必然性が有って、共存している。だから,
当該二文字が共存する意味合いを捉えるべきだ。それには、もう少し時間が必要。
どちらにせよ、「ḫt」(ハッティ)は、「ḫt」(timber)か「ḫt」(fire)か、「ḫt」(物, 事)だろう。