(※公開中の作品ですがネタバレありです。ご了承下さいませ。)
ウィッシュ
(原題:Wish)
2023年
監督
クリス・バック
ファウン・ヴィーラスンソーン
データ
ウォルトディズニーアニメーションスタジオ62作目の長編アニメーション。
ウォルト・ディズニー・カンパニー創立100周年記念作品。
監督は「ターザン」や「アナと雪の女王」シリーズを手掛けた重鎮クリス・バック。
そして今回が初監督作品となるタイ出身のファウン・ヴィーラスンソーン。
脚本は今回がディズニー長編作品ほぼ初参加であるアリソン・ムーアと現スタジオのチーフ・クリエイティブ・オフィサーであるジェニファー・リー。
音楽はこれまで実に様々なディズニー名作映画達の音を支えてきたデビッド・メッツガー。
オリジナル楽曲は「シュガー・ラッシュ:オンライン」のエンドソング等も担当しているディズニー作品を手掛けたシンガーソングライターのジュリア・マイケルズが担当しています。
原作のないディズニーによる完全オリジナルストーリー。ですがディズニー100周年記念の作品というのが着想のはじめから有り、これまでのディズニーの作品達を全て机上に上げそれらを踏襲するような形で制作されました。
イベリア半島・ロサス王国を舞台にアーシャという17歳の少女が人々の願いを守るため強大な敵と戦う姿を描いたファンタジーアドベンチャー。
主人公のアーシャ役には「ウエスト・サイド・ストーリー」でも話題となったアリアナ・デボーズ。
日本語版には元乃木坂46の生田絵梨花さん。
ヴィランとなるマグニフィコ王を「スター・トレック」シリーズ等で知られるクリス・パインが演じています。
日本語版は福山雅治さん。
アーシャの相棒バレンティノ役には【ディズニーのお守り】と言われている名優アラン・テュディック。
日本語版はこちらも【ジャパンディズニーのお守り】と言える存在の山寺宏一さんが出演。
マグニフィコの妻アマヤ王妃役は様々なテレビドラマで活躍するアンジェリーク・カブラル。
日本語版は女優の檀れいさん。
アーシャの友人の一人サイモン役には「アメリカン・ホラー・ストーリー」のスター、エヴァン・ピーターズ。日本語版は落合福嗣さん。
ディズニー100周年の目玉として米国では11月より公開されましたが、その興行収入と批判家の評価は芳しくなかったようです。
ただ、観客の満足度はそれに反して高い数字を獲得しています。
又、日本では他国と比べ興行収入でも好調を記録。ランキング1位も獲得し、ヒット作となりました。
評価としては少々否の多い賛否両論といったところですが、SNSを中心にヴィランのマグニフィコ人気が爆発。現在も静かなブームを巻き起こしています。
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あらすじ
強力な魔法使いマグニフィコが治めるイベリア半島沖合の平和な国・ロサス王国。
どんな人でも受け入れるこの王国では、人々の願いを18歳になると王に差し出すという決まりがあった。
願いを差し出した者はその記憶を失い、そしてその願いは王の厳正なる判断とその魔法の力によって月に一度、一人だけ叶えられる。
この法律と王の魔力により人々は願いに心を囚われることなく健やかに幸せに暮らす事ができる…
とロサスの民は皆信じていた。
しかし、民の一人であるアーシャという17歳の少女はとある事がきっかけその法律と、王マグニフィコの闇に気付いてしまう。。
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感想
良いところや素敵なところもいっぱいあるんですが、ディズニーの一本の長編作品として観ると、あと一歩物足りないというのが正直なところです。
詳しくは↓以下↓で〜。
※アニメーションと音楽
まずはこれまでディズニーが培ってきた手描きの味わいと最新のCG技術を融合させたそのアニメーションの独特な質感は素晴らしいです。
パンフレットを読みましたが、やはり「紙ひこうき」 の技術を進化させたものでしたね。
セルルック等とはまた違う次元の、新たな映像世界でした。
今回新たな試みとしてただの手描き風ではなくディズニー往年の水彩画の雰囲気を表現しようという試みがが行われていて、特に背景画などは非常にノスタルジーを感じさせるような特徴的な作画になっています。
ただ、肝心のキャラクター作画に関しては描き込みが足りない&ムラがある気はしてしまいました。
全体的に簡素で動きに滑らかさや重量感も足りません。
これは申し訳ないですが、アニメーター達の現在のレベルが格段に落ちているのを顕著に表していると率直に思いましたね。
音楽に関しては作画と違いあまり古典にとらわれる事なく現代のセンスと感覚でガンガン攻めるジュリア・マイケルズの楽曲が最高でしたね。
※メモリアル作品として
一つ言えることは、これが間違いなくディズニーの作品にこれまで触れ合い大切な物を受け取ってきたディズニーファンによるディズニーファンの為の映画であるということ。
これは間違いないです。
【ディズニーの作品に大切な何かを感じている人】の深層心理をくすぐり、寄り添うようなテーマと内容になっています。
ただ「願いは自分で行動しないと〜…」みたいな表面的なパブリックテーマではなくて、ディズニーのこれまでのキャラクター達が「願い」とどう向き合ってきたか。
そもそも、ディズニーがこれまでずっと向き合ってきた「願い」とは何なのか。
その部分とはじめて正面から向き合った映画だと思います。
ピノキオの記事でも書きましたがディズニーはこれまで【星に願うだけで夢が叶う】なんて映画は1度も作っていません。
ディズニーのこれまでのキャラクター達の行動や活躍を知っている人、ディズニーがこれまでどういう作品を作り続けてきたのかを理解してる人だけにスッと染み入るような作り方がされているのは見事だなと思いました。
逆に言うと【ディズニーの映画に大した興味を持っていない人】にとっては間違いなく「ふーん。」で終わっちゃう作品だと思いますね。
それとオマージュに関しては確かにこれでもか!と隠されています。
ただ正直「…で?だから?」て物が多いんですよね。
ただオマージュを入れました!
それだけなんです。
「魔法にかけられて」や「ロジャー・ラビット」とは違ってそのオマージュに意味はまったくないんですよね。
それがちょっと残念でした。
あとまぁネタバレ謳ってるんで書いちゃいますけど、オマージュと言うよりこれはマルチバースを狙ってるの?と思うような部分も多々見られます。
具体的に言っちゃうとアーシャ=フェアリー・ゴッド・マザー説とマグニフィコ=白雪姫の魔法の鏡説です。
一回見たら一目瞭然な程わかりやすく強調してます。
これはまぁ賛否両論だと思いますがウィッシュは「一番最初のおとぎ話」というコンセプトがあるので個人的には有りですね。
ただまぁ何よりも良かったのは間違いなくエンドロールです。
これは皮肉じゃなくて。
個人的にはこのエンドロールはオマージュではなく「ウィッシュ」という作品の一部だと受け取ってます。
このエンドロールまで見てはじめてこの映画が伝えたかった事がわかる、そういう仕組みになってます。
これは本当に素晴らしいと思いました。
※核心についてこない脚本
前述の通りディズニーの根底と言える「願い」という壮大なテーマとその展開もファンの心を大いにくすぐるんですが、細部のディティールや細かなフォローが足りないんですよね。
あと一歩踏み込んでくれたら…
あと少しここを描いてくれたら……ていう、そういう部分がとても多かったです。
具体的に言うとやはり各キャラクターの心情変化です。
アマヤ王妃や七人の仲間たちを筆頭に国の民達の葛藤や心情描写が圧倒的に足りません。
マグニフィコの深掘りが…
とよく言われていますが、個人的にはそこはあんまり問題じゃなくて。
最後の決戦の時のミュージカルシーン。
最高に素晴らしい出来で何回見ても泣くんですけど、普通に見たらやはりあそこでの皆の改心が唐突すぎるんです。
折角良いシーンなのにそこまでの脚本がお粗末な事でこのシーンが霞んじゃうんですよ。
これは本当にもったいなかったです。
これを【想像の余地を残している】と前見向きに捉える方もいますが、個人的にはハッキリと【大味すぎる演出と展開】と捉えてしまいました。
というのも、過去の作品達のように感覚で捉えさせる映画を目指したのかもしれませんが、それにしてはこの作品は言葉で説明し過ぎなんですよね。
なのに、言葉で説明しまくっているのに、余り観ている人に入ってこない。
正直どっちつかずな粗い脚本であるというのはどう擁護しても否めないです。
本当にディズニーの根幹を担うテーマを扱っているだけに、もう少し繊細に物語を語って欲しかったですね。
折角凄く核心をついたテーマなのに、制作側の伝えたい事が半分くらいしか観た人に伝わってない感じなんですよね。
願いとは何なのか。
その核心に辿り着きそうでたどり着いてない感じが歯がゆかったです。
あとギャグシーン・コメディシーンも正直物足りないです。
この辺も往年の名作定番ギャグを意識しすぎて、少々空回りしてる感じがしちゃいましたね。
最近の作品にあったギャグの歯切れの良さがあまり見られません。
ていうかぶっちゃけほとんど滑ってます。
ここにも脚本の悪さが出ちゃってますね。
「アナ雪2」で世界中を笑い転げさせた、同じ人の脚本だとは到底思えません。
実際に今作はジェニファー・リーが脚本を担当しましたが途中でアリソン・ムーアを雇って脚本を引き継がせたという経緯があります。
個人的には正直このギャグのキレのなさがこの作品で一番残念だったかもしれないです。
※キャラクター描写の希薄さ
これも本当にディズニーらしからぬ薄さでしたね。
スターとマグニフィコに全振りしちゃったのか他のキャラクターのバックボーンが本当に薄いです。
そしてそのスターも正直それほど特筆すべきものは…。
いや可愛いんですけどね。
これまでのディズニーならもう1個性乗せてくるかなぁ、、と思っちゃいました。
バレンティノの蛇足感は言わずもがななんですが、個人的に気になったのはサバじいちゃんとお母さん、そしつてアマヤ王妃。
七人の仲間とかはあんなもんでも良いのでこの三人だけでももっと魅了的に厚く描けていたら、ガラッと物語の深みが増したと思うだけに、残念でした。
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まとめ
いやね。良かったんですよ。
本当に。本当に良かったんです。
まがいなりにもディズニー映画ファンですから。
毎日何かしらのディズニー映画観てますからね。
そりゃ大いに心を揺さぶられたし、泣きましたよ。
ただ、全てにおいてあと一歩が足りない感がとても強かったです。
とにかくこれまでの不振を吹き飛ばす快作を期待しすぎてたんですよね。
そしたらかなりミニマムな、愛のたっぷり詰まったファン映画が出てきちゃったって感じで…。
この100年の記念作品だからこそ、これまで培ってきた物を全て詰め込んだような、誰もが唸るような圧倒的傑作を期待していたのでやっぱり個人的にはちょっと複雑な気持ちでした。
あとはやっぱり100周年の為に頑張って作りました!感が出すぎてたかな…。
ディズニー映画にあまり興味がない人にとっては、おそらく凡作といった評価になってしまうのは間違いないと思います。
ただね。
迷ってるディズニーファンの人には是非一度ご鑑賞頂きたいです。
やっぱりこの映画はディズニーファンへのディズニーからのメッセージだしご褒美なんですよ。
だからこそディズニー好きな人には受け止めてほしい。
そんな一本なんです。
作品的には正直難の方が多いかもしれませんが、自分は劇場でこれを観て、本当に良かったし、本当に嬉しかったんです。
充分素晴らしい作品でしたよ。
そして、この100周年の記念として、こんなにもファンへの愛と往年の名作達への敬意に溢れたダイレクトな記念碑作品を届けてくれた制作陣に、やっぱり心から感謝です。
このタイミングでこの題材をテーマに1本の作品をしっかり作り切ることができた事実は、今後のディズニーにとっては間違いなく大きな一步だったと信じています。
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