はぃどぅもぉ。
さて、今回は2週目のディズニーアニメーション映画史。時代は1960年代、ディズニーアニメーションスタジオの停滞期とも言える時代へ。
シンデレラの大成功のおかげで安定を取り戻した1950年代から一転、「眠れる森の美女」の収益的失敗とウォルトのディズニーランド運営やテレビ事業への事業拡大で再び窮地に追い込まれたディズニー。
それを救ったのは、大幅に経費や労力を削減できる新技術ゼログラフィを使用した前作「101匹わんちゃん」の大ヒットでした。
これにより低予算・短期間でもヒットを生み出せる手応えを掴んだディズニーは、次作でもその所謂【ドル箱路線】を継続していく事になります…。
(※当ブログは基本ネタバレありです。ご了承下さい。)
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王様の剣
(原題:The Sword in the Stone)
1963年
総監督
ケン・ピーターソン
監督
ウォルフガング・ライザーマン
データ
ウォルトディズニーアニメーションスタジオ18作目の長編アニメーション。
原作はイギリスのTHホワイトによる1938年の小説。有名な中世ヨーロッパの騎士道物語アーサー王伝説の序章部分であり、混乱の只中の法や秩序が無くなったイギリスで、後のアーサー王であるワートの子供時代と王になるまでが描かれています。
基本的には原作を踏襲しているものの、歴史的な伝説を基とした作品であり様々な要素が混在した原作を、コメディアニメーションに落とし込む為に多数の細かな改変が行われました。
出版後僅か1年でウォルトが映画化権を獲得しますが、その後の世界大戦の開戦やスタジオの方針変更により本格的な制作になかなか入る事が出来ず、長年水面下で温められていた企画の1つでした。
1950年代にようやく本格的な制作が開始されるも、眠れる森の美女の失敗で長編制作に慎重になっていたウォルトは「101匹わんちゃん」に次ぐ作品として数本の制作中の作品を篩いにかけます。
その中で見事白羽の矢が立ったのがこの「王様の剣」でした。
今作はウォルトが生前最後に完成を見届けた長編アニメーション作品としても有名です。
前作「101匹わんちゃん」で初導入されたゼログラフィ技術を引き続き採用。
さらに新たな技術も追加することでアニメーション作業をより効率化・低予算化する事に成功しています。
制作を指揮したのはケン・ピーターソン。
ベン・シャープスティーンの後継として1960年代までのディズニー作品を支えた人物です。
今作が彼のディズニーキャリア最後の作品となりました。
監督を務めたのはベテランアニメーション職人集団であるナイン・オールドメンのメンバーウォルフガング・ライザーマン。
脚本とストーリーは「101匹わんちゃん」に引き続きビル・ピートが単独で担当しました。
ピノキオ以降の数多くの長編作品を手掛けてきたストーリークリエイターです。
音楽も「101匹わんちゃん」からジョージ・ブランズが担当。1960〜1970年代にかけて多数のディズニー作品を手掛けたアーティストです。
楽曲制作はディズニーミュージックレジェンドのシャーマン兄弟。「メリー・ポピンズ」や「イッツ・ア・スモールワールド」で名声を浴びる前であり、彼らが手掛けた記念すべき初のディズニー長編アニメーションでした。
本作の主人公である青年ワートを子役として活躍していたリッキー・ソレンセンが演じましたが成長期による声変わりで降板。急遽監督であるウォルフガング・ライザーマンの2人の息子が代役を演じました。
日本語版は土井美加さん。デイジー・ダックの専属声優をはじめ様々なディズニーボイスを演じています。
魔法使いマーリン役には俳優のカール・スウェンソン。彼の数少ない声優の仕事の1つとなりました。日本語版は内田稔さん。
マーリンの相棒である梟アルキメデスを演じたのは「くまのプーさん」シリーズの初代ラビット役でも有名なユニウス・マシューズ。
日本語版は江原正士さん。
ワートの養父であるエクター役には「くまのプーさん」シリーズの初代ナレーター役でも有名なセバスチャン・カボット。本作でもナレーター役を兼務しています。日本語版は吉水慶さん。
ヴィランのマダム・ミム役には100の声を持つ女優と言われた名優マーサ・ウェントワース。
日本語版は福田公子さん。
特に日本語版キャストは、これぞまさにディズニーアニメーションといったお馴染みの実力者達が名を連ねています。
前作「101匹わんちゃん」からの流れである低予算・短期間制作を引き継いだ作品で、制作費は101匹わんちゃんのそれよりもさらに下回る事に成功します。
興行収入としては決して特大ヒットとは言えないながらも収益面はしっかりと黒字を収めました。
評価面では一般評価・批判化レビュー共に賛否両論となり、ストーリー面の起伏や展開の脆弱さや単調さに批判が集まるものの、主にマーリンやマダム・ミム等の魅力的なサブキャラクターや軽快な雰囲気やギャグのセンス、哲学性の強い脚本等が多方面から称賛されました。
しかしながら決して強烈な個性を持っているわけではない今作は、現在では(日本では特に)その他多くのディズニー作品の中に埋もれ、あまり認知度の高い作品とは言えないマニアックな1本とされています。
ただ、今作のキャラクターであるマーリンは人気ゲーム「キングダムハーツ」でレギュラー出演している他、オムニバス系の作品にも頻繁に登場するなど高い人気と認知度を持っていたり、マダム・ミムは一部でカリスマ的な人気を獲てディズニーコミックに頻繁に登場するなど、ファンの間では知る人ぞ知る1本としてコアな支持を獲得し続けている作品でもあります。
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あらすじ
遥か昔のイングランド。
国王が王位継承者を残さずに亡くなった事で、王の座を巡り争いが多発し、国は荒廃の一途を辿っていた。
そんな時、突然ロンドンの街中に石台に刺さった1本の剣が出現する。
その剣の柄には【この剣を引き抜いた者を次の国王とする】というメッセージが刻まれていた。
沢山の強者達が剣を引き抜こうと挑戦するが、誰一人達成する者は現れず、やがてその剣の存在は人々から忘れ去られていった。
それからしばらく後…。
森に住む魔法使いの老人・マーリンは、とある少年が自分の元へやってくるのを待っていた。
その少年は世界にとって【重要な人物】であり、マーリンは彼に教育を行なう運命なのだと言う…。
そして予言通り、1人の少年がマーリンの家に現れる。
この非力な少年が、国全体の歴史を大きく変える事になるとは…この時は誰一人知る由もはなかった…。
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感想
前作の「101匹わんちゃん」から始まった「大作ではなく低予算短期間で出来る面白い作品を作って収益を上げよう」という【ドル箱方針】を色濃く引き継いだ作品。
1960~1980年代の作品郡は特にこの傾向が非常に強いのですが、今作はその中でもこの方針がより顕著な1本となりました。
それは画風や音楽といった要素だけにとどまらず、ストーリーやテーマ自体も非常にライトなノリで展開されています。
白雪姫やピノキオに代表される名作のような雰囲気は無く、物語全体がどこか大きな冗談のようなシニカルさに覆われてることが最大の特徴です。登場人物の言動等も全てがどこか軽率で適当なんですよね。
こういう作風を良しとするかどうかは好みの問題だと思うのですが、個人的にはこういう「全部冗談よ」みたいな作品は好物なので実は結構この作品好きだったりします。
作品の趣向や種類は全く違いますが「チキン・リトル」と似たような匂いがするんですよねw
ただまぁ1本の映画として面白いお話しかと言われればまぁそうではないので、苦手な人の方が多いのも容易に理解できますが…。
詳しくは↓以外↓で〜。
癖だらけのプロットと脚本
この作品は、本作に癖だらけです。
何しろアーサー王伝説が主題なので、本来の背景としては重々しくシビアな物である筈なんです。
しかし、そのストーリーはあらすじやタイトルから想像するような壮大さや重厚さは全く皆無であり、兎に角全てのノリが軽く、作品全体が物凄いシュールさ。
脚本もプロットも異常に薄く、真面目にストーリーを進めようとしていない。
争いが耐えない戦乱の世を舞台としてるとは思えない程、キャラクター達の行動や発言は皆軽率でどこか抜けている。
と思わせて幾つかのシーンは信じられない程哲学的だったりもします。
しかもそこに突然最狂ヴィランのマダム・ミムをぶっ込むもんだから、、もうホントに…。
ホントに癖だらけですw
脚本とストーリーは101匹わんちゃんと同じビル・ピートが一人で担当してるんですが、このクセは間違いなく敢えてだと個人的には確信しています。
この作品の他にないくらいのシニカルで皮肉だらけな作風は、ビル・ピートの当時の心境を表していたんじゃないかなと思うんですよ。
実際にこの直後に彼はウォルトと揉めてディズニーを退社していますしね。
ストーリーは決して褒められた物ではなく単調で退屈な部類に入るとは思いますが、この作品全体に漂う良い意味での適当さはホントにクセになるし、個人的には大好きなんですよね。
それと、、日本語版の翻訳。
これもねぇ、作品のシュールな雰囲気を再現しようとしたんだと思うんですけど…相当やりたい放題でめちゃくちゃ面白いですw
ディズニーの映画で、、
「とんでもハップン歩いて5分じゃ!」
なんてセリフが出てくるの、間違いなく後にも先にもこれだけでしょうw
最狂ヴィラン・マダム・ミム
やはり今作の中でどうしてと触れずにはいられないのはマダム・ミムでしょう。
このマダム・ミムというキャラクターは、ある意味歴代の中でもトップクラスの狂気を魅せつけてくる、強烈なヴィランなんです。
一見、小物感の強いちょっと不気味な悪魔女おばあちゃんといった感じなのですが…。
このヴィランの恐ろしいところは、、目的も野心も持っていないこと。
ただただ人に不快感を与えることに快感を感じているだけ…という点なんです。
ただ、人を不快にさせるのが大好きなだけなんです。
目的や野心があるから悪いのではなく、存在自体が純粋な悪なわけですよ。
これって何だかんだ一番恐ろしいし、一番不快なんですよね…(笑)
まぁやってる言動は結構小物なんですけども…。
初登場シーンで家で大人しく一人トランプしてるヴィランって…なかなか居ないですよねw
個人的に最近流行りの、ヴィランにも【こんな過去があった】【こんな事情があった…】という展開が、ことディズニー映画に関してはちょっと馴染めない人なのでこういうマダム・ミムのようなヴィランにはやっぱり魅力を感じますね。
例外はあれどディズニーの基本なやっぱり勧善懲悪なわけじゃないですか。
やっぱり悪は不快感を感じるくらい徹底した悪でいてくれないと!
アニメーションと音楽
アニメーションの方は前作から導入したゼログラフィによる線の硬さや粗さがより顕著になった感があります。
101匹わんちゃんの時代設定や街並みの方がおそらくこの手法は合ってるのか、今回はちょっと背景画の粗さや簡素さも目立ちましたね。
音楽はシャーマン兄弟の記念すべき長編アニメーションデビュー作ですが、正直まだまだ本領を発揮していない感じですかね…。
マーリン様の「Higitus Figitus」なんかは凄く良かったです。
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まとめ
前述した通りこの作品は全体が冗談のような、とても不真面目でシュールでシニカルなコメディ映画になっています。
しかしそんな作風でありながらも、時折ふと哲学的なシーンやセリフが挿入されているのも大きな特徴なんです。
その中でも個人的にとても印象に残ったのが、主人公ワートが魔法使いのマーリンを認めないご主人に対して涙を流しながら放った…
「自分にわからない事があるからって、それが間違いだとは言えないでしょう?」
という台詞。
このシーンだけ特になんかちょっと浮いてる気がします。これは憶測ですが、もしかしたら脚本のピートがウォルト宛にひっそりと忍ばせたメッセージなのかもしれませんね。
一般的にはおそらく【あんまり面白くない】という意見の方が圧倒的に多いでしょう。
派手さも重厚さも全くないし、脈絡も起伏も乏しいそのストーリーは、やはりお世辞にも良く出来た脚本とは言えません。
ただ、こういうお硬めの題材でも、兎に角楽しく明るいコメディにしてやろうというその意気込みはしっかり伝わる作品だと思っています。
何よりアクの強いキャラクター達の言動は、やっぱり何度見ても笑ってしまう、クセになる面白さがあります。
個人的には無理矢理深いものを作ろうとする最近のエンターテイメントの真逆とも言えるこの作品の「くだらなさ」がとても好きです。
こういう作品だって立派な長編映画にしちゃうのが、おときちが思うディズニーの最大の魅力なんですよね。
願わくば、こんな【くだらない】長編作品を、また新作でいつか観てみたいものです…。
好き嫌いがガッツリ別れる作品ですが、その雰囲気や笑いのセンスがハマる人も結構居ると思うんですよ。
未見の方は機会があればぜひ一度お試し下されば幸いですね。
「王様の剣」は現在ディズニープラスで配信中です♪
はーい。
というわけで今回はこの辺で!
今回も長文駄文にお付き合い頂きありがとうございました♪
しーゆーねくすとたぁいむー。