side N
奇跡が、、、おきた。
俺はさとしを見つめて動けなかった。
捕まえなきゃいけないのに、驚きすぎて固まって思考さえストップしたようだ。
俺に気付いてないさとしは俺に背を向けて歩き出して漸く俺も体が動いた。
このままじゃ会えなくなる!
捕まえようと腕を伸ばしかけて、、俺はさとしが今どこにいるのか気になって後を追うことにした。
絶対見失わないように、慎重に。
さとしは駅に向かってる。
切符を買ってる少し後ろの方で、押すボタンを確かめ、俺は焦りながらも切符を買って同じ電車に乗り込んだ。
さとしは回りも見ず、俯きがち。
俺としてはその方がラッキーだけど、1年前のさとしと比べると覇気もなく、顔色も優れない感じ。
絶対に見失わぬよう、さとしを盗み見する。
暫く電車に揺られて着いた場所は、海のある場所。
やっぱりさとしは海の近くに来たんだな。
海の近くの駅にはそんなに人も居なくて、改札を出る人も疎らだった。
かなり距離を取って俺も改札を出て、少し離れたさとしを探す。
見つけたさとしは、、浜辺の方に向かって歩いていた。
その背中を見つめながら、俺は防波堤に隠れてさとしを目で追いかける。
さとしは波打ち際近くの流木に腰かけた。
背を向けてるから俺も防波堤からでて、浜辺をゆっくり歩いていく。
なるべく音をたてぬように。
何となく近づくほどに、緊張していく俺。
波の音しか聞こえない暗い海。
さとしの背中に近づき、、熱くなる心と瞳。
そんなさとしは俯いて膝に顔を埋めて、小さな消え入りそうな声を出した。
「、、、、かず、、」
我慢していた涙がぶわっと溢れた。
1年間、ずっと呼ばれたかった。
他でもない、、さとしに。
「、、、、呼んだ?」