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女戦士 (Mardaani) 2014年 111分 
主演 ラーニー・ムケルジー & タヒール・ラージ・バシーン 
監督 プラディープ・サルカール 
"口をつぐむな、叫べ"

 

 

 これは、実際の事件から着想された物語である…。 

 ムンバイ警察の刑事シヴァーニー・シヴァージー・ローイは、今日も街を騒がす暴徒たちを次々と鎮圧・逮捕していた。犯罪者に容赦ない捜査員である彼女には、夫シヴァージー・ローイ医師と義理の娘(両親を亡くした姪)ミーラーと言う家族、さらに、かつて売られる寸前にシヴァーニーが保護してから娘同然に世話している孤児ピヤーリーがいた。 

 ピヤーリーが自分で決めた誕生日(夏のガネーシャ祭の日)から3日、遅まきながら彼女の誕生日を祝うため学校にピヤーリーを迎えに行ったシヴァーニーは「あの子は4日前から学校に来ていない」と言われ愕然。聞き込みの結果、人身売買組織に誘拐された疑いが浮上する。ピヤーリー捜索を開始したシヴァーニーだったが、人身売買組織とつながりのある男カピルの尋問中、突如何者かが彼を射殺してしまい…!!

 

 

プロモ映像 Mardaani Anthem (マルダーニー讃歌)

 


 原題は主人公の通称。その語義は、ヒンディー語(インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語)で「男らしい」の女性形とか。
 プラディープ・サルカール監督の5本目の監督作となる本作は、結婚後初となる久々のラーニー主演作であり、女児の人身売買に立ち向かう女性刑事の活躍を描くクライムスリラー!
 一部内容は、1973年のヒンディー語映画「Keemat(価値)」に影響を受けているという指摘も。
 日本では、2015年にIFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて「女戦士」のタイトルで上映。

 「インドでは毎年約4万人の児童が拉致され、うち1万1千人が行方不明のままである」「8分ごとに、インドの子供が行方不明になっている」とラストに締めくくられる、凄惨なインドの現実を描きつつ、その人身売買ビジネスの現実に警鐘をならすバイオレンス色の強い映画(そこまでグロくはないけど、鼻血くらいは普通に出してくる)。
 冒頭、夜のムンバイの雑踏の中で、同僚刑事たちと軽口を叩きつつ凶悪犯の部屋を包囲し、自ら腕力で犯人をねじ伏せるシヴァージーの強さをアピールし(上司に「いい加減自重しろ」とまで言われる荒ぶりよう!)、続いて家庭では家族それぞれに尊重し支え合う幸福な日常を描いて始まる映画は、そうしたムンバイの日常のすぐ隣でうごめくマフィアたちの恐ろしさ、人身売買ビジネスが大手を振って活動し続けるインドの現実を効果的に突きつけて行く。

 女版ダバングのようなノリ(リアル路線ではあるけど)のラーニー演じるシヴァーニーは、同じプラディープ監督&ラーニー主演作「Laaga Chunari Mein Daag(ヴェールは汚れた)」とはうって変わって、マフィアたちに立ち向かい、力でねじ伏せ、必要とあれば銃撃も辞さない冷徹かつ豪腕な刑事として活躍し、法を守らせ違反する者には身体をはった格闘技をも披露するパワフルな役所。悪人に容赦せず、法を守らせることでインドの治安を維持せんとする愛国要素も入れ込まれてもいるか。
 過去のプラディープ監督作のような理屈っぽさもあるけど、本作ではその堅実性と娯楽性、メッセージ性がわりと面白い方向でまとまっているように感じられる。

 主役演じるラーニー・ムケルジーは、1978年西ベンガル州コルカタ生まれ(ムンバイ生まれとも)。
 父親は元映画監督でフィルマラヤ・スタジオを創始したラーム・ムケルジー、母親は歌手クリシュナー・ムケルジーで、兄に映画プロデューサー兼監督のラージャ・ムケルジーがいる映画一族出身。親戚には、女優デーバシュリー・ローイ、映画監督兼脚本家アーヤン・ムケルジー、女優カージョル、女優シャルバーニー・ムケルジー、男優モフニーシュ・バウル、女優タニーシャー・ムケルジー、男優兼映画監督ジョイ・ムケルジー、男優デーブ・ムケルジーがいる。
 少女期からオリッシー・ダンスを修得して、毎年ドゥルガー・プージャー(秋のドゥルガー女神祭)で披露していたそう。子供時代は父親の方針もあって映画界に興味を持っていなかったそうだけど、18才の頃に父親の監督作となる96年公開のベンガル語映画「Biyer Phool」で映画デビュー。続いて、母親の勧めで翌97年のヒンディー語映画「Raja Ki Aayegi Baraat(王の側近がやって来る)」で主演デビューし、スクリーン・ウィークリー・アワード新人賞を獲得。その後一旦ムンバイのSNDT女子大学に戻って学業に専念した後、家政学の学位を取得してから本格的に映画界に入ることとなる。
 当初、その声が批評家たちに嫌われて女優活動域を狭められていたそうだけども、4本目の出演作となる98年の大ヒット作「何かが起きている(Kuch Kuch Hota Hai...)」でフィルムフェア助演女優賞他を獲得。以降「標準的ヒロイン」を嫌い新規性の高い映画に参加して話題を呼ぶものの、なかなかヒット作に恵まれない中、02年の「Saathiya(つれあい)」のヒットに続き、04年には出演作「Yuva(若さ)」「Hum Tum(君と僕)」「Veer-Zaara(ヴィールとザーラ)」の3本すべてが大ヒットし、史上初のフィルムフェア主演女優賞と助演女優賞同時受賞と言う快挙を始め多数の映画賞を獲得。一躍トップスターに名を連ねることとなる。13年には、その功績を評して在印アメリカ大使館から特別杯が贈呈されている。
 私生活に関しては一貫して沈黙を守ってメディアに振り回されることを拒んで来たものの、本作公開前の14年4月にヤシュラジ・フィルムズ社長兼映画プロデューサー アディティヤ・チョープラ(本作のプロデューサーでもある)と結婚し、そのイタリアでの結婚式は大々的に報道されていた。
 女優活動の他、児童教育支援NGO活動に参加したり脳卒中患者支援基金を設立したりと、ボリウッド俳優多数と共に積極的に慈善事業に関わっているそう。

 白昼堂々の睡眠薬その他を使った女児誘拐の詳細を描いたり、用済みの女児やマフィア構成員があっさり銃殺される裏世界の様子を描いたりと、目を背けたくなるインドの現実をリアルに描くため、実際に人でごった返す混乱のオールドデリーでロケをしていたそうで、監督始め撮影監督を務めたポーランド人カメラマン アルトゥール・ズラウスキーの苦労話がメイキングで色々と語られている。
 同じように、実際の売春街にカメラを持ち込んでロケしていた「サラーム・ボンベイ!(Salaam Bombay!)」や、ネパールで暗躍するインド系マフィアによる人身売買の様子を描いたネパール映画「Dhuwani」に通じる、日常のすぐ隣に存在する裏社会の傍若無人さ、人権なるものがいっさい無視され他者を利用する事しか知らない人々の暗躍と自己保身の姿を、リアリティ重視で描いていく重苦しい映画ながら、そこから主人公の機転によるサスペンスフルな復讐劇、利用され続け踏みにじられて来た女児たちの怒りが爆発するラストは、その奇想天外さ、胸のすく思いを体感出来る娯楽作になっているけれど、しかしそこまで人を蹂躙する現実があると言うインパクトが、とにかく一番凄まじい。

 本作のために修得したと言う護身術格闘技クラヴ・マガ(イスラエル軍で採用されている護身用総合格闘技)を披露するラーニーも見もの。メイキングでは、その簡単な技をいくつか披露して「身を守るためにも、皆で修得しよう」みたいなノリが強い所も、良きかな。

 


ラーニーのインタビュー / タイトルについて(ヒングリッシュ)
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受賞歴2015 Filmfare Awards 音響デザイン賞(アニルクマール・コナカンドラ & プラバール・プラダーン)
2015 Stardust Awards スリラー/アクション映画主演女優賞(ラーニー)
2015 Screen Weekly Awards 悪役男優賞(タヒール・ラージ・バシーン)

 

 

(。・ω・)ノ゙ 女戦士 を一言で斬る!
「誘拐事件の捜査を察知したマフィアたちが、すぐにゲロしそうな仲間を始末し、シヴァーニーの周辺に攻撃を加える、その手慣れた素早さは忍者か!」


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