ヒロインの輝き 11 完

 

 

   そしてキョーコの感触から悪くなさそうだと蓮に伝えてみたが、貴島自身が本気でなければ意味がない。
「貴島さんの本気度ね。百瀬さんはステキな人だから、ヘタな男を推薦はしたくないからね。その所だけは大切よ」
「そうだね。打ち上げの時の君を着飾らせた意味も、取りようによってはキョーコを楽しませる事にもなったし、打ち上げで目立たせた。新人女優には華やかなスタートになったという事だね」

 

「でも、どなたかにはキツい言葉を頂きましたけど?」
 少し不機嫌になったキョーコが蓮を睨み上げた。
「それは貴島君が君を自分のモノのようにお披露目していたし、あとは無自覚な俺の嫉妬でした。ゴメンね」
 蓮はキョーコを抱き寄せて額にキスをして許しを請うた。
「…あの時から嫉妬していてくれていたの?」
「してましたよ。だから、インタビューは俺と一緒にして貰ったし、早めに君を貴島君から離れるようにしたし、メールの処分と、君と貴島君がメールの遣り取りをしないように念押しもしたしね」
「……ふ~ん。いっぱいしていたのね」
 キョーコが少し呆れて蓮を見た。

 

「するよ。君を取られない為には、俺はどんな事でもするよ」
 そう言って、蓮はキョーコに覆い被さるようにして唇を重ねてキョーコを逃げられないように強く重ねた。
 普段の敦賀蓮としてみせる優しい笑みでなく、妖しい笑みが浮かびキョーコも逃げる事が出来ない強引なキス。蓮のキスならイヤではないが、唇が重なるまでの数瞬浮かぶ妖しさが、背中にゾクリと感じさせた。
 キョーコはこんな時の蓮のキスは、息さえ出来ないほどに重ねて…いつもよりも強く、上手く逃げられない時は気を失いそうになる。 それでもそんなキスは、他の誰かには逃げられないように…独占欲の強い思いがキョーコを支配したくて重なるのだと知っている。

 

「キョーコ。今夜はキスの次もいいのかな?」
「イヤって言っても…いいんですか? こんなキスをしてきて…」
 蓮の深く長いキスに、キョーコの呼吸は酸素不足を起こしていた。
「じゃあ…ベッドに……」
「あの運んで…下さい」
「歩けない? では…ご要望通りに」
「もう! この似非紳士!」

 

 そう言いながらもキョーコは蓮に抱き上げられながらも、寝室に運ばれるのをじっとしていた。
 頬を染めたまま、それでも蓮の首に腕を回したキョーコからは、少し切なそうな溜息が蓮には聞こえた。

 

「嫌いなキスだった?」
「蓮だから嫌いじゃないけど、明日もお仕事がありますからね?」
「俺もあるよ」
「私は蓮みたいに体力はありませんから!」
「じゃあシない?」
「……そうじゃないけど、程々にして下さい///」
「キョーコ相手だと…加減出来たらね…」
 嬉しそうで妖しい笑みの蓮に、キョーコは半分諦めた溜息を吐いた。
「先輩の敦賀蓮の顔も残しておいて下さいよ…」
「嫌いじゃないんだろ?」
「限度というものをお願いします!」
「好きなキョーコの事を、我慢出来たら男じゃないよ」
「……バカ!///」

 

 

*  *  *

 

 

 数日後。
 蓮と貴島が揃って建物から出てきたところに、アイドル系の女性と出くわした。
「敦賀さんと、貴島さん!?」
「きゃー握手して下さい!」
 まだ新人芸能人だろうか、間近に見る大物美形の芸能人に浮き足立ってせめて触れてみたいと、突進する勢いで2人に向かっていった。
「あ、敦賀さん、ご婚約おめでとうございます」
 蓮に手を伸ばした女性は、ニッコリと笑って見えるが何処か寂しそうにも見えた。
「あの…もうご結婚とかは決まっているんですか?」
「う~ん、そういう事は順調に進んでるとしか言えないかな」
 蓮はその表情も読みつつ、当たり障りなく答えた。
「お幸せなんですね…」
「俺にはキョーコしかいないから、君にもそんな人が現れるよ」
 目尻から涙が伝う姿は、ミーハーなだけではない蓮を慕うファンだと分かった。蓮は軽く女性の髪で手を弾ませた。
「あの、貴島さんはまだ決まった方は…」
「俺? ん…チャレンジ中。とびっきりの女性にね」
「貴島さんもなんですか?」
 残念そうな女性にフェミニストな貴島が頭をもたげた。
「直ぐには難しいかもね。敦賀君に次いで、俺まで彼女出来たらファンの人がっかりしそうだしね」


「貴島君!」

 少し離れた入り口から、逸美が出てきて表情が固まっていた。
 話しているのがある程度聞こえていたらしい。
 流石に大物芸能人の表情が変わると、今日は帰った方がいいと女性2人は頷き合った。
「じゃあ貴島さん、今度呑みに行きませんか?」
「ん…あぁ…」
「是非是非! 敦賀さんは京子さんに誤解されたりしますよね?」
「キョーコはしないよ。彼女とは昔から…そしてこれからもずっと一緒だから、俺がキョーコを離さないからね」
「うわ~、お惚気ご馳走様でした」
「どう致しまして」

 

 少ししんみりした方の女性の分、貴島に声を掛けた女性が盛り上げて去って行った。芸能人の「出来たら」の約束も分かっている様にも見えたが…。
「悪い癖だね、貴島君」
 蓮が後ろから声を掛けるが、貴島もノリで答えてしまった上に、逸美に聞かれてしまった会話はもう消せない状況で、カクンっと首が前に倒れた。
 開き直る訳ではない。だが今の自分の行動に対して、逸美に言葉にすることでただ振られるだけの思いにはしたくないと思った。

 

「今の聞いてた?」
 貴島にしては静かな響きの声だった。
「聞こえてきました」
 貴島は空を見上げて溜息を吐くと、逸美に向かって真剣な顔になった。

「逸美ちゃんさ、俺の気持ちは本物だけど…」
「だけど?」
「真面目人間にはなれないと思う」
「何故?」
「可愛くて、美人で、真面目で、女優さんとしてもいいな…って思うけど、チャラ男から逸美ちゃん好みの真面目なヤツにはちょっと無理そうな…」
 パシッ!
 逸美が貴島のいつもと違う自信のなさそうな表情に、頬を思い切り打った。


「…えっ?」
 貴島は頬の痛みよりも、その行動をした逸美に驚いて目を見開いていた。
「ごめんなさい。貴島さんは、私に本気ですか? チャラ男な貴島さんですか?」
「いてて…。目が覚めた。逸美ちゃんには本気だよ。それは間違いない。ただ、さっきみたいに声を掛けられたら、可愛い共演者がいたら、声を掛けるのはわかんない」
「貴島さん!」
「キョーコ」
 蓮と待ち合わせていたキョーコが注意しようとしたが、蓮が口を挟まないように人差し指を立てて、静観するようにキョーコに言った。
「声を掛けているところに、私が現れたらどうしますか?」
「その時は逸美ちゃんとのデートの時間。君だけは本気だから、誤解させたらイヤだからね」
「分かりました」


 逸美が建物に一度姿を消すと、貴島が「ダメか…」と呟いたが、叩かれた頬よりも心の方が痛いと感じた。
(此処で振られると、ますますチャラ男になりそうだな…)
 貴島は逸美が逃げて行ってしまったと思ったが、ハンカチを濡らして帰ってきて、貴島の頬を冷やそうとした。
「え? 逸美ちゃん?」
「ごめんなさい。貴島さんが他の女性を私の目の前でもナンパしたらと思ったら、それに…弱音を吐いて私から逃げて聞こえて…寂しいと思いました」
「それって、ヤキモチ?」
 逸美がコクンと頷きながら、それでも貴島の頬を冷やすハンカチはそのままで、「ごめんなさい」と呟いた。
「俺…チャラ男くんは卒業するけど、少しの間は間違えて声を掛けそうになるのは猶予をくれない? 逸美ちゃんだけが此処にいるのを自覚する時間」
 貴島は胸を親指で指しながら逸美に言った。
「ふわふわ自由なチャラ男くんが、逸美ちゃんに認めて貰えたら、逸美ちゃん一筋のもう少しいい男になるからさ。そうしたら、デートももっとしようね」
「ふふふ…デートもしましょう。私の事ももっと見て下さい。私も貴島さんの事、もっと真っ直ぐに見てみます」

 

 少し離れたところで様子を見ていた蓮とキョーコは、ホッとして笑顔を見せていた。

 

「あの貴島さん。一つ聞いてもいいですか?」
「何?」
「貴島さんが1人の女性に決めようとした切っ掛けって、敦賀さんと京子さんじゃないですか?」
「……どうしてそう思ったの?」
 逸美から少しだけ視線を反らした貴島の返事の僅かな間を感じて、それほど遠い意味では無いと感じた。
「私からお2人の遣り取りを見ていても、同じ距離を歩ける人がいるのっていいな…って思ったんです。言葉だけに頼らない会話や、一緒にいる時間を楽しめる人は、私の近くにいるのかな…って」
「俺はそれに合格しそう?」
 楽しそうに逸美の顔を覗き込む貴島の笑顔は、悪戯っ子の様で女性を口説く貴島の笑みとは違った。
「余所見しないでくれるなら、まず合格最低ラインの50点です」
「え? ちょっと厳しくない?」
「点数は努力次第です。頑張って下さい」
 順調なスタートかと思いきや、最初のハードルから高くて貴島はガックリした。
「敦賀君。このハードル低くする方法は無いのか?」
「キョーコでなくてどうして俺に聞くのかな?」
 蓮とキョーコが笑いながら顔を見合わせて2人を見ていた。
「君の方が口が上手い」
 ごくシンプルに貴島が口にした。
「女性の心までは俺にも分からないよ。今分かるのはキョーコだけだ。まずは百瀬さんが君を選んでくれたなら、彼女のペースでスタートして、お互いの距離を詰めていけるかだね」
「……冷たいね…」
 貴島が溜息を吐くが、逸美を見つめる目は優しい。
「ホントね。京子さんの言っていた『瞳はウソを吐かない』って」
 そう言った逸美の目は優しくて、少し恥ずかしそうに貴島を見た。
「京子ちゃんの?」
「今の貴島さん。私が知ってる中で一番優しい瞳をしてます。先ずは一歩ずつ、前向きにお願いします」

 


* * *


 そして第1作目の収録は始まった。

 

『すみません。背の高いお兄さん。写真撮ってくれませんか?』
 スッと後ろ姿が振り返れば女性は叫んでいた。
『めちゃハンサム!』

『キャー!』
『それはありがとう』
 爽やかな笑顔に、女性2人旅なのか目がハートの状態になっていた。
『あの、地元の方ならこの辺りの観光案内して貰えませんか?』
 常套手段のナンパ丸見えだが、そこに女性の声が響いた。
『ゴメンね。連れが来たから』
『え~~』
『恋人に拗ねられたら後が怖いからね』
 そう言われては女性達も引くしか無かった。
『あの…これメールです』と言って、女性とは反対の方に去って行くが、諦められないのか小さな紙に手早く書いて渡してきた。

 

『あらら? 恋人さんは何をしていたのかしら? 可愛いお嬢さんに懐かれていた様だけど?』
 なぎさのキョートな笑顔がすーっと目が鋭くなり、神田に似非紳士的な笑顔を見せた。
『観光客で、写真撮って欲しくて頼まれただけ』
『ホントはナンパされたでしょう? そしてその手の中身はメルアドかしら?』
『流石、目がいいね。要らないからなぎさにあげる』
『私が貰ってどうしろというの?』
『君が捨ててくれれば一番わかりやすいでしょ、恋人さん?』
 なぎさは恋人が誤解させない方法で処分してくれればいいという…一番わかりやすい方法に、本来の可愛らしい笑顔で恋人の首に手を掛けると、そのまま頬にキスをした。
『その笑顔が一番好きだよ』

 

 

 新たな主役2人の甘い雰囲気から、ドラマは始まった。
 神田のなぎさにだけ見せる笑顔や、なぎさのクルクルと変わる表情は、見る人達を惹き付けた。

 

 ドラマは新旧の『抱かれたい男№1』の刑事達に加え、ブリッジロックがプッと笑いを誘い、奏江の美人警官へと華やかな面々が揃う。
 そして初回ゲストを百瀬逸美が華を添えながら、少し軽そうな刑事が今回のガード役として、ゲストヒロインを和ませる役として付き添った。貴島には美味しい役処として逸美にも本気を見せたい。

 

 そしてラストには、
『君みたいな恋人がいたら、ずっと楽しいだろうな…と思って』
『私は今、フリーですよ』と俯き加減でほんのり頬を染めるヒロインの可愛さに、貴島がアドリブで抱き締めた。
 監督はこの様子を見て、このまま逸美を準レギュラーに決めた。毎回ではないが貴島の相手役としてだ。

 

 

「女優も男で変わるが、いい女優は男を変えてくれるもんだね」

 

 新しいドラマが、華も笑いも、淡い恋も、可愛さの中から悪人を突き止める姿は爽快でもあり、いい出来映えとなった。


 そして、明日を放映スタートへと、監督も納得の出来へと仕上がった。

 

 


♡FIN♡

 

 

 長くのお付き合いいただきましてありがとうございました。

なぎさとしてのキョコのセリフが頭の中で、本家のなぎささんの声と話し方になってました。怖いぐらいの変換度は刷り込み刷り込み。( ̄▽ ̄;)話し方もチャーミングなんですよ~って、好きなものとかの記憶力はOKだったのに、お勉強の方は…なんじゃもんじゃ←って何?(^▽^;)

 

前作の「ヒロイン」の大本部分に、好きなものを放り込んだようなお話になりました。楽しかったですが、紐が絡まる絡まる(^▽^;) 前作とは大違いでしたでしょう? これは私もここまでは予定外でした。

本物のなぎささんも某番組で見ていますが、「雪姫隠密道中記」からのファン歴はさて何年?今も可愛らしくて素敵ですわ~大好きな女優さんです( *´艸`)

 

 

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それと、ラストで事件のヒロインがレギュラーになるというのは、「三毛猫ホームズ」TVシリーズの一番古いシリーズ1回目にあります。石立鉄男さんと坂上良子さんコンビで、調べたら6作しかなかった。他の方もいらっしゃることは知っていたけど、坂口さんの『ねぇホームズゥ~』の呼び方が可愛かった♡。それ憶えてるんかい、私(^▽^;) 但し原作ではない設定です。この頃の海外モノ含めた推理ものも、山盛りてんこ盛りネタありますのでまた記事にしてみたいかも。(コロンボ、コロンボのカミさん、ポワロ、ミスマープルなどの、アガサクリスティーとかもあるのよね~どんだけ?(^▽^;))