今オフにFAやポスティングによる移籍動向が注目された選手の大半は、移籍先が決まったようだ。


メディアの報道では実情はわかりにくい気がする一方で、色々な想像を掻き立てられる感もある。NPBの選手会は年俸額を非公表とする動きも見られる一方で、MLBに移籍する場合には契約内容の大枠が報じられる。こうした点にも、契約社会である米国と日本の違いを考えさせられる。


今オフはバファローズの吉田正尚選手が、ポスティング制度を申請したと報じられた翌日に、BOS(ボストン・レッドソックス)と5年9000万ドル(約126億円)で契約に合意したことが明らかとなった。吉田選手の契約合意により、オリックス球団は1537万5000ドル(約21億円)の譲渡金を得られる。


吉田選手が早期に契約した理由として、BOSの環境(レフトまでの距離が狭く、守備の不安を軽減できるなど)と高い提示金額が挙げられている。吉田選手のポスティングにあたり、米国のMLB関連報道では厳しい評価も見られた為、BOSとの契約は好条件だったのは確かだろう。


だが、吉田選手が早期契約に至ったのは、FA宣言をした森捕手を獲得したオリックス球団が西武球団に提出する人的補償リストの作成との兼ね合いもあったと思う。吉田選手がMLB球団と契約合意に達しなければ(長期化すれば)、オリックス球団は吉田選手をプロテクトする必要に迫られる可能性があったからである。吉田選手がBOSと契約合意に達したことで、オリックス球団は吉田選手をプロテクトせずに人的補償リストを作成可能となった。


ホークスからFA宣言してMLBへの移籍を目指した千賀滉大投手は、NYM(ニューヨーク・メッツ)と5年7500万ドルで契約に合意した。MLBでは先発投手の年俸が高い傾向があるが、千賀投手の契約内容は吉田選手を下回るものだった。


NYMは千賀投手が希望するとされる優勝を狙えるチームであり、来季は順調に進めばバーランダー投手、シャーザー投手というMLBを代表するビッグネームとともに先発の一角を担うことになる。千賀投手は今オフのMLBではFA選手のトップ50に名を重ねていたが、5年7500万ドルという契約内容はMLB Trade Rumorsに記されていた事前の予想通りだった。MLBへの日本人選手の移籍動向を追う場合には、米国のMLB関連サイトの原文に触れることをお薦めしたい。ファンのシビアな反応に触れることもできる。


日本ハム球団からFA選手した近藤健介選手は、福岡ソフトバンク球団へ移籍することが決まった。7年50億円とも報じられる契約内容は、NPBのFA選手の歴史を振り返ってもかなりの大型契約である。


近藤選手の獲得には、在籍していた日本ハム球団を含む5球団が参入したとされるが、交渉過程などが報じられたのは日本ハム球団、福岡ソフトバンク球団、西武球団で、過去のFA選手の交渉同様にオリックス球団の動きは報じられなかった。


夕刊紙「ZakZak」のサイトで西武球団への移籍が報じられたが、福岡ソフトバンク球団への移籍となったのだから誤報である。だが、「ZakZak」は「独自」と謳ってまで西武球団への移籍を報じていた為、自分は近藤選手の移籍に関して「ZakZak」がどんな報道をするのか注目していた。それが以下のツイートである。


記事内容を見る限り、担当記者は西武球団の担当者から近藤選手の獲得に対する大きな手応えがあったという取材内容を踏まえ、記事化した印象である。この報道があった日に福岡ソフトバンク球団は長谷川コーチを同席させて近藤選手と2度目の交渉をしたことも報じられた。この交渉の場で条件の上積みがあったと報じられたが、裏を返せば福岡ソフトバンク球団は初回の条件では厳しいという情報が寄せられたのだろう。



個人的には近藤選手の交渉経緯を見ていて、したたかな印象があった。だが、近藤選手の移籍が決まった後に、代理人の存在が報じられたことで腑に落ちた。代理人の仕事はクライアント(選手)の価値と利益の最大化であり、好条件を引き出せると判断すれば、複数回の交渉機会を設けるのは理解できる。



他方、吉田正尚選手の代理人は、MLBの代理人の中でも(良くも悪くも)やり手と言われるスコット・ボラス氏だったが、BOSの条件を受けて他球団との交渉を退けた旨が報じられた。近藤選手の代理人がギリギリまで好条件を引き出す為に尽力する一方で、吉田選手の交渉に限ってはボラス氏が(吉田選手とオリックス球団の意向を踏まえて)早期決着を図ったことが興味深い。



いちスワローズファンとしては、MLB移籍を見据えて村上宗隆選手が誰を代理人に据えるのかに興味がある。村上選手が順調にキャリアを重ねれば、日本人野手では歴代最大規模の契約を得られる可能性が高いが、それ故にタフな交渉を進めることのできる代理人の存在が必須となるからである。