(会員さんに毎月お配りするコラムより)

 

 

画像は2020年の心身統一合氣道会のカレンダー、これに書かれているのが、『心身統一合氣道の五原則』、別名『人を導く五原則』です。

 

<心身統一合氣道の五原則>
一、氣が出ている
二、相手の心を知る
三、相手の氣を尊ぶ
四、相手の立場に立つ
五、率先窮行 

 

これは心身統一合氣道で技を行う時の五原則で、この順番通りに行うことで、相手の抵抗に合わずに、力を使わずに投げることが出来るというものです。そして同時に、人を導くこともこれと同様である、ということで、『人を導く五原則』となります。

 

「人を導く」と言うと、「相手を思い通りにコントロールする」ことと思われる方もいるかもしれません。しかし、これはまったく違うことであることが、この五原則を知ることで理解していただけると思います。 

 

今になって思うと、私の前職である銀行という職場では、この「相手を思い通りにコントロールする」という考え方が強くはびこっているところでした。たとえば、「担当する顧客へのグリップが強い(弱い)」などという表現がありました。これは、銀行の営業職員の能力や資質を評価する言葉で、グリップが強い営業というのは、顧客に銀行側の要求を飲ませることが出来る、ということを意味しています。そういう人が、高く評価されていた、ということです。つまり、顧客の希望よりも、銀行の希望を優先させることが出来る者が優秀である、ということです。これは私が本当に嫌いな考え方でした。
 

同様に、上司となる人物にも、このような資質が求められていました。この場合、顧客に対してだけではなく、部下である職員に対して、有無を言わさず与えたノルマを達成させる、という能力になります。もちろん、中にはそうではない人もいましたが、総体的に見て、こういう人間ほど、早く出世する会社であった、ということが出来ます。そんなところが、私が辞めた要因の一つではありました。

 

ところで私が辞めたこの会社、その後どうなったかというと、こうした体質が行き過ぎて不正融資の多発を招いてしまい、ニュースでちょくちょく報道されるほどの大問題となり、トップをはじめ多くの役職員の退職と業務改善命令で、大打撃を受けてしまいました。現在は役員幹部が総入れ替えされ、顧客の立場に立った営業を推進する、という方針のもと、再出発しています。  
 

最近の報道では、郵便局(かんぽ生命)でも同じような出来事があったようです。やはり、自分のことばかり優先させることを良しとするやり方は、徐々に排除されていく時代になっているのではないでしょうか。

 

上司と部下の関係についても同じです。トップの方針を頭ごなしに押し付けるようなやり方では、優秀な人材は入ってこなくなり、イエスマンばかりになっていき、組織そのものを揺るがすような大失敗に突き進んでいってしまう。戦前の日本国も、そのような空気だったのではないかと推測します。 

 

 

話が少し逸れました。つまり、「相手を思い通りにコントロールする」という考え方は、「心身統一合氣道の五原則」とは全く相容れない考え方である、ということです。「人を導く」ためには、必ず、「相手の心を知る」「相手の氣を尊ぶ」「相手の立場に立つ」、というように、相手のことを尊重しなければならないのです。相手の思いを無視したり、制止したり、逆行させることというのは、本来無理なことで、これを強行するということは、そもそも天地自然の法則に逆らうことになるからです。

 

このことは、上司と部下、のみならず、先輩と後輩、社長と社員、先生と生徒、親とこども、などなどのいわゆる上下関係のあるすべての場所で、特に強く意識していくべきだと思います。 

 

心身統一合氣道の稽古をすると、このことがよく理解できます。心身統一合氣道の技などの稽古では、相手のことを投げてやろうと思ったり、自分の思い通りに動かしてやろうと思ったりする時、決まってうまくいかなくなります。そこで「心身統一合氣道の五原則」に立ち返り、5つともきちんと出来た時、相手がいとも簡単に動いてくれるようになります。

 

「相手の氣を尊ぶ」

 

このことがどれほど大切であるか、心身統一合氣道を稽古する方は何度も何度も経験するはずです。だから、日常生活においても、相手の意向を無視して押し付けるようなことは、やりたくなくなっていき、出来なくなっていきます。(私自身の経験です。)これは、私のいた会社の顛末を見てみても、これからの時代において、正しい方向性なのだと感じております。 

 

そもそも、「相手をコントロールする」とは、「他人(の心)を変える」ということですが、これは無理なことです。人間関係において、自分に接する他人の態度が、いくらおかしいからと言っても、他人を変えることは出来ません。もし変えることが出来たと思っている人がいたら、それは錯覚と自信過剰。実際には、その他人が変わったのは、様々な周囲の状況によってその人の心が変わったから、に過ぎないのです。
 

自分が変えることが出来るのは、自分自身だけです。自分が変わることによって、他人との関係性は変わり、結果として自分から見れば、他人が変わったように感じます。 

自分が氣を出し、相手の心を知り、尊び、立場に立って、共に動くことにより、はじめて人を導くことが出来る。 

 

この前提に立つことで、変えることが出来ない他人を変えようとして悶々と悩む必要はなくなります。何か自分の周りに変えたいことがあったら、さっさと自分を変えてしまい、その場所と違う所に立ってしまうことです。自分を囲む環境が勝手に変わります。

 

変えられないことに執着して、狭く小さいものの見方をしてしまっていると、こういう考え方は出来なくなります。
 

だからこそ、氣を出すこと。つまり「滞り」をなくし、広く大きな視点を持って周囲を感じ取り、今出来ることに全力を注ぐこと。これを地道にずっとずっと繰り返していくことで、必ず自らの信じる道を進んでいくことが出来る。
そんな風に私は考えています。 

 

心身統一合氣道はただの武術などではなく、大いなる人生哲学である、という私は考えているのですが、ご理解いただけるのではないでしょうか。

 

日常生活や人生において役立つことが多い「心身統一合氣道」。その中でも、この「心身統一合氣道の五原則」(人を導く五原則)は、特に強い輝きを持つ教えではないか、と思っています。 

 

これを読んでいただいた方々が、この指針を持って日常に活かし、周囲の方々に説道していただければ、最大の幸せです。