空海とヨーガ:高野山リトリート | 森田ゆり/エンパワメント・センター

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空海とヨーガ・高野山でリトリート               森田ゆり

 

ヨーガの歴史は古い。

4500年前、それはインダス文明に始まったとされる考古学上の痕跡がある。

日本では、8~9世紀にすでに仏教僧の間で修行されていた。中でも有名なのが空海。

「瑜伽ゆうが」経を伝えた空海は日本のヨーガのルーツとも言える。

空海は唐から帰国後、高野山を嵯峨天皇から賜り広大な高原を切り開いて密教の修行場とした。

以来1200年、117の修行寺、52の宿坊、織田信長など戦国武将たちの墓から満州や沖縄戦の慰霊碑など、死者を悼む20万塔の墓たちがスギやヒノキの巨大な木々の下で苔むしたたずむ一大霊場だ。

 

去る9月に、生活ヨガ研究所主催の高野山合宿に仲間のヨーガリーダー達と参加した。

日本のヨーガの聖地ともいえる高野山で、二日間ヨーガ三昧なんてこれ以上心躍ることがあるだろうか。

折しも台風14号が九州で猛威をふるい死者を出してから関西一帯を直撃しようとしていた。それでも私たちは「天空」という名の特別列車に乗って高野山に向かった。

「歴史的な大型台風が接近しています」と繰り返す天気予報のためか、高野山の町全体で、店はシャッターをおろしていて、人はまばらだった。

世界遺産に指定されて以来、世界有数の観光スポット高野山は閑散としていて、千メートル級の峰々に囲まれたまさに深山幽谷だった。天高くそびえたつ木々が時折ザワザワと揺れ森の霊気に満ちていた。

 

風が宿坊の窓ガラスを揺さぶる中、御堂でヨーガ練習が始まった。参加者は導師の数珠孝氏を含めて30人。最初に、数珠氏が言った。

「今回の合宿のテーマは、いのち」「いのちって何だろう。いのちについて思いめぐらしてください」

 

宿坊の精進料理は素晴らしかった。最初の10分間は瞑想しながら食べる。一人につき2膳分の多彩な料理。その一つ一つを味わって食べる。それぞれの量が少ないのがまた味わいを増し、感謝の思いが溢れる。

大型台風は予想に反してスケールダウンした。

根本大塔の前でご来光を浴びながらの早朝ヨーガは、雨で室内に変更になったが、午後からは風雨が止んだ。

楽しみにしていた水行が可能となって天候に感謝。

奥の院の弘法大師御廟の手前を流れる玉川の橋の傍らで行う。

白い晒の作務衣を着て、肩まで水につかる。頭上から流れ落ちる川の中で、般若心経を唱えながら冷たさに耐える。

数分で水からあがると身体がポカポカして暖かい。全身の血流が活発にめぐって内側から熱くなっている。再び川に入る。また再び。と何度も繰り返した。ありがとう玉川の冷たい水。水行に感謝!と心の中でエコーする。

水行を終え、心身清めてから橋を渡り、弘法大師のお墓のある奥の院へ向かう最後の参道を歩く。樹齢500年以上の樹々。老樹からこぼれる木漏れ日。両側には数えきれない墓の群れ。死者の霊と樹々の生気との凛とした不思議な調和を感じて、ぞくっとする。

奥の院では、今も弘法大師空海が生きて修行を続けているとされている。そのため一日2回食事を運ぶ僧たちの儀式に遭遇した。

 

空海は土地の古い神様も大切にした。高野山を開いて最初に祀ったのが縄文系の古い土地の神様だった。空海が最も大切にした「理趣経」は、いのちのすべてを受容しつなぐ。森羅万象、草木国土悉皆成仏。空海の思想は多様性(ダイバーシティ)そのものなのだ。

多様性とは、人と人とをつなぐこと。逆に差別とは人と人のつながりを切ることだ。

 

ちなみにヨーガとは「つなぐ」という意味のサンスクリット語。座してゆっくりと息を吐く時、座骨から大地につながり、息を吸う時は背筋の先、頭頂から天につながる。「私」とは大地と天をつなぐ存在だ。そのシンプルな身体感覚こそが四千年のヨーガ思想のエッセンスである。「つなぐ」という日本語はどこまでも深い。

空海の若き頃の「三教指帰」の有名な一文「谷響をおしまず、明星来影す」は、室戸岬の海岸の洞窟で修禅していた空海に、明星が光を放ち身体に飛び込んできたという宇宙との一体を感応した瞬間を書いた。その時、彼の目に見えた空と海がつながったことから、「空海」と名乗るようになったという。

 

今回の高野山ヨーガ合宿のテーマは「いのちとは?」だった。

即座に「感謝」と答えよう。つながりは感謝だから。

一泊だけだったのにとても長く感じたその濃密な時間のすべてに感謝したい。主催者に、30人の参加者に、精進料理に、宿坊に、高野山という聖地に。そしてすべてのいのちがつながっている曼荼羅を説いた空海に感謝。いのちよ、ありがとう。

                 連載ダイバーシティの今 「月刊部落解放」2023年1月号 より