入院生活 ④(Sさん) | 緋鷹由理 

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たぬこと熊太の徒然日記を主に掲載しています。

入院して気づいたことですが、私は寝言を言うのです。それも、はっきりした口調でしゃべるものだから、同室の患者さんSさんが、

「何か夢でも見た」

と二人きりの時に言われました。

 「えっ?」というと

 「いや、さっき何かしゃべっているから、見たら、あんた寝てるんだよね」

といわれます。

 「寝言で、しゃべってたんですか?」

 「そうみたいだね」

私はこの時はじめて、寝言を言うことを知りました。

後で分かったことですが、寝言も、はっきりしゃべるそうで、時には感情もこもっているらしく、主人は面白がっています。

娘は「母さんと寝ると、寝言といびきがうるさい」と言います。

 Sさんは、患者さんの中でも、しっかりした方で、これといって精神障害はないように見えますが、入院中に半身不随になって、身寄りが無かったため、退院できずに、病院で、27年過ごしているそうです。

 よく見ると、一目瞭然、半身不随でした。

 Sさんの入院生活の長さにも驚きましたが、それ以上の人も、かなりいます。

 若いときから入院しているという、お年寄りが多く、私は、若者の部類に入りました。さながら、老人ホームといった具合です。

 Sさんには、人生のことをいろいろ学びました。経験豊かな方で、今はおばあちゃんですが、若い頃は、働かないご主人に生活費まで持っていかれて、離婚してからも、子供を育てながら、いろいろな仕事をしたり、スナック勤めもしたそうです。

 その中で、子育てや、不安定な生活、世の中の矛盾、理不尽、女性への蔑視、と縦横無尽に駆け抜けた、老女の人生経験、果ては、不倫の経験や、女性の性の習性、など、今まで、誰も話してくれなかった、秘密の生き方、世間の裏側部分や、その中を生きてきた苦労など、私の経験なんて、いと息で吹き飛んでしまうような話を、折にふれ話してくれるのです。

 私が病院にいる間、Sさんは私の知らない、未来の話を経験を通して、教えてくれました。後に、この話が、孤独なときを支えてくれるのです。

 そして今でも、Sさんの話は、苦しい時や、どうにもならない、やるせない出来事が起こるたびに、私の力になってくれます。