人生が曲がった瞬間  | 緋鷹由理 

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たぬこと熊太の徒然日記を主に掲載しています。

気がついたとき、香の足が見えました。

“失敗”

私は香を見上げます。息ができません。首の紐をほどこうと、もがきます。

香がはさみを持ってきました。息ができるようになり、また倒れ込みます。

その時はじめて、時計が目に入り、まだ十時半であることに気がつきます。

随分ためらっていたようでしたが、それほど時間はたっていませんでした。

後で分かったのですが、猫の足音だと思ったのは、香が私を探して歩きまわる音だったようです。かなり五感が鈍っていたのでしょう。

私が飛び降りたとき、ドン、と壁にぶつかる音で、香は事務所に来たようでした。

窓の外にぶら下がる母親を見た香は、すぐに紐を切ります。

当然、二階の高さから落下したのですから、無事ではすみません。

香は冷静で、淡々と物事を進めます。舅を呼び、私は救急車で運ばれました。

悔しい気持ちと、どうでもいいという気持ちが交錯します。

いよいよ観念して、薬とお酒を大量に飲んでいることを、救急士に話しました。

はじめは、骨折だけと思われていて、整形外科へ向かいましたが、そこでは対応できないので、救急士はそれなりの設備のある病院へ向かいます。胃の洗浄が必要だからです。

私には香が付き添いました。私が希望したのですが、香には残酷だったのかも知れません。

しかし、その時、信用できる大人はいません。香だけが身内だったのです。

それからしばらく、運び込まれた総合病院で過ごしますが、私は精神病院への転院を希望し、5月の半ばには転院しました。

明らかに香がいなければ、私は死んでいたのですが、今になって、香が

「あの時助けたこと、怨んでいるなら、怨んでいいよ」

といいます。

高校生でそんなことを考えていたなんて。

なぜ、怨むことが出来ましょう、香には酷い(むごい)事をしました。

「怨むなんて、そんな事無いよ、助かってよかったよ」

としかいえませんでした。

このあと精神科で四ヶ月程過ごすことになります。