久しぶりです。これ、一年に一巻でるから。

今度はストーリーの要約なくすぐ入ります。

*輦下という呼称はたぶんオルランヌの跡継ぎに付くもので。。。漢字は書かれてないため私が適当に書きました。

 

ーーー

 

21p
 

「あなたたちがこの愚かな反乱を画策した理由が、子供しか信じない妖精の話にあるとは。それよりはまともな理由が聞けると私は思ったのですが。アルベル公、私もまたあなたは大公家の一員に相応しい忠義を持ってると思っていました。他の者たちからあなたは大公の位に目の眩んだ貪欲な愚か者だと言われても、私はこの家門にそんな愚か者はいないと思いました。だからこそ危険を冒してここまで来たのですが、これはなんでしょうか。この国の大公が私であってはならない理由、一言でも真実なる意味を込めることはできなかったんでしょうか。叔父と姪が刀を持って向き合ってるこの瞬間に」


「お前は知らない。。。あの女は大公殿下を利用してお前を産み出して、お前にひどい課題を投げた。それは大公家の後継の役目ではない。大公というのは魔術師ではないのだ。魔術じゃなくて、統治でオルランヌを守らないとならない存在だ」


シャルロットは初めてでぎくりとして目を細めた。今のは自分がりんごの夢を受け付けてアイアンフェースと向き合わなければならないという事実を示しているようだ。
 

 

58p

 

「もう帰りなさい」

「どうして?」

「あんたはこの国の大公にならないといけないから」

 

ジュリアンは戸惑った顔でそれを聞いた。彼は父と母、弟たち、自分の身分すら忘れていた。

しかし「大公」と言われた瞬間、潮が引いた海辺のように記憶が蘇った。その海はいつかみた半分くらい風化した鹿の屍に似ていた。醜くて、ごちゃごちゃで、見る必要のないあらゆるものがさらけ出されていた。

そこが自分が来た場所だった。彼は大公になるべき少年であった。ジュリアンは震えながら首を振った。

 

「いやだ。帰らない。僕はここのほうが好きだ」

「だめよ」

「どうして?」

「あんたの国、オルランヌは、私が愛して祝福した地だから。その地からあんたを奪うことは出来ない」

「弟たちがいる。あの子たちが大公になればいい」

「できないよ。遠い未来のことだけど。。。」

 

リーラは立ち上がった。どこかから風が吹き込んで桜草の花畑が砂糖のように砕けてあっちこっちに舞い上がった。次に家が数千の蛍になり空の上へと飛んでいった。何時も遊びにきた動物たちの姿も見えなかった。妖精たちが近づいて二人を囲んだけど喋る者はいなかった。ジュリアンの目から涙が溢れた。

 

「やめろ、リーラ。やめてくれ」

 

リーラの目からも涙が落ちた。

 

「あんたが苦しむと私も苦しい。私、欲張りすぎだった。もっと早くあなたを帰らせるべきだった。ここで四季を全て過ごすのではなかった」

「違う。いやだ。僕はお前と離れない。僕は何処にも行かない。そんなことやめて。。。」

 

ジュリアンは息を深く吸い込んでは止めた。言いたかった言葉が荒い呼吸になって飛び出した。

 

「リーラ、僕と結婚してくれ」

「。。。」

 

リーラは答えなく儚い目でジュリアンを見ては彼の手を取った。体がゆっくりと空に飛び上がった。

二人はまたも三日月のように歪んだ島の上を飛んだ。妖精たちはついてこなかった。来たときより風が暖かい気がした。地平線に日が掛っているため世界は朱色に満ちていた。

二人はまた始まりの海辺に降りた。小波が足をくすぐった。ジュリアンはリーラの両手をぐっと握って彼女の目を覗き込んだ。必ず答えを聞く。もし拒絶だとしても。

やがてリーラは答えた。

 

「うん」

 

 

63p


「結局私はデルピンに、そなたはリラかと聞けなかった。何故私に来て、何故去ったのかもしらなかった。私は何も理解できなかった。ただ苦しくて、妖精に取り付かれたとしか思えないから腹が立つばかりだった。私には何も出来ないと分かるからこそもっと。。。それでデルピンと関わったもの全てを片ずけさせた。私が耐えられなくて。でも時間が経った後、君には言うべきだった。わたしの失策だ。だが。。。

根拠もなく、私は怖かった。この秘密を守らないとお前まで私の側からいなくなるのではないか。知った途端、お前までデルピンと同じく人間世界の全てを手放し妖精の地に飛んでしまうのではないかと。お前すら行かせるわけにはいかないからこの話は私だけ知っていようと思った。幼かったお前がふんわりと飛び舞うバレエを好んで、床を踏んではいるのか思うくらいはらはらと飛んでくる度私は心底怯えていた気がする。君がエトワルになると言った時、私は反対したが実は嬉しかった。ああ、この子は人間だな。妖精なら手に持った刀で何かを切ろうとはしないだろう。我が娘、人間の君は私を捨ててどこかいくことはないだろう」


シャルロットは視線を下に向けたまま黙ってそれを聞いた。父が娘が半分人間、半分妖精ではないかと恐れていたという話を。そんなことを思ったのは父だけではない。アルベル公も死ぬ寸前に言った。妖精の娘、お前だけは止める。
シャルロットはそれを否認したけど、父が肯定したような形になった。自分は本当に妖精の娘か?一足を別の世界に踏み出しているためこの国を守れない、だから大公になってはならない存在だというのか?

 

 

71p

「反撃者フィリップ·ド·ランブワーズ、バイユー公爵婦人、サンリス侯爵、サンリス侯爵婦人は恐れ知らず大公殿下を抑留し弑虐する画策をした罪、大公国の後継に対する大公殿下の命を操作して軍を起し大公の位を簒奪しようたした罪で斬首されることになる。後日の見せしめにするため、このものたちの首を冬の宮殿の城壁に晒ししろ。この者たちの財産と領地は全て没取されることになり、その子息たちは爵位と貴族の身分を失うことになる。もしその子息の中、反乱に荷担した事が後表れるものがいたらロシュー島に配流するように命じる」


ぼんやり想像していた以上の断固な処罰に何人かの貴族が驚いた目で公女を見た。その時アレマン団長が答えた。
 

「御意」
 

その他も答えた。
 

「御意」
「峻厳な命を直ちに実行しろ!」
 

 

78p

馬車の窓を開けて大公が軽く頷いた。


「また会えて嬉しい、侯爵」
 

かんぺシュ侯爵は続いてシャルロットを見た。彼は感激の顔で叫んだ。
 

「おお、公女輦下!あの太陽すらも今日はあなたのために輝くようです。大公家の嫡流の名に相応しい威厳のあるお姿、まことに凛々しく眩しい!大公殿下を助けるため駆け付けた決断は全ての臣下が頭を垂れる忠誠であり、反撃与党を一気に殲滅した舞踊は偉大なるシャルル1世の現身と言っても言い過ぎではないでしょう。輦下のようなお方が将来この地を治める以上の洪福は大公国にありません。ご覧下さい!あの愚かな民までも嬉しさに耐えず輦下を拝めようと出ています!」
 

シャルロットは少々呆れてカンぺシュ侯爵をじっと見たけど、でもこの場では空気を読んで受けてあげないと不作法になるだろう。シャルロットが頷くとカンぺシュの顔が明るくなった。
そして一言どころか二言三言まで足し始める。
 

「自分で申し上げるのも恥ずかしいですが先日、私は大公殿下の命に従いキップに赴任して輦下の忠直な下僕であるカスティーユ卿と会ったのです。彼はあなたから授けられた刀を持っていましたね。私めはそれを見るなり遠い地で輦下のお姿をお目に掛れたような感激に屈服し、その劍に刻まれた芍薬に口付けをし忠誠を誓ったのです。輦下、私の久遠の忠誠を受けて下さい!」
 

シャルロットはその事件について知らないため、首を傾げるしかなかった。今聞いたことで状況を思ってみようとしても何の話かいまいち解らない。カンぺシュ侯爵の名を聞くだけでも顔が固まるローランとキップで遭遇して、いきなり駆け付けて彼が持ってる劍に口を当てた。。。何がしたかったんだ?
変な絵しか想像できないのでいい返事を見いだせなかったシャルロットが言った。
 

「そうですか。卿の忠義に驚きです」
 

本物の称賛か、以外だというのか解らない答えだったが、カンぺシュはそんな口ぶりくらいで挫けなかった。
 

「わたくしの本気が伝わってとても感激です!さあ、行進の続きを!すばらしい勝ち戦の宴会が用意されております!皆の心を込めて。。。」
 

行列がまた動き出すと後ろ側で、グスタブがジョアンヌに囁いた。
 

「腰の劍に。。。何だと?お前分かるか」
 

ジョアンヌは肩をすくめた。
 

「ローランがあのやつの頭をぶっ飛ばしたい気持を良く我慢したんだな」

 

 

 

83p
 

「うむ、国に手柄を立てたお方を粗末に扱うのは周りにも良い見本になりません。人々から私には見る目が無いと言われる筋合いになります」
「オルリーに堂々と帰還された輦下の姿そのものこそ私には何よりも大きな報償であります。国運を掛けていいような優れた後継が危機を退け成長する様子を側で見られる機会を得ただけで、私の老年の運を使い尽くしたようなものです」
 

礼法の枠の中で言い争ってこの大人しい大領主に勝つのは難しかった。この押し問答が長くなると感じたシャルロットはひょこっと表情を変えて言った。
 

「あ、分かりましたよ。宰相になってほしいと私から言われるかなと心配してお逃げですね?」
「。。。」
 

ジスカルが黙ったところから、1点は取れたと見てもいい。シャルロットはにっこり笑って見せた。
 

「でもいくら逃げても一生楽に生き過ごすようにはしないと存じておきますように。明日は素直に送りますが、今後会った時は二倍に返していただきます」