片想い 性同一性障害―― 一般的に、この言葉が知られるようになったのは、つい最近のこと。先日から第7シリーズが始まったTBS系ドラマ『3年B組金八先生』の第6シリーズで、上戸彩が演じた鶴本直――彼女こそ、身体は女性でも心は男性という、心と身体の性別が異なる「性同一性障害」として描かれたのです。その前後には、競艇で、地方議会で、戸籍上の性別ではなく、心の性別で認識される人たちも登場しました。そしてついに国会で一つの法律が成立、先月に施行されました。「性同一性障害者の性別の取り扱いの特例に関する法律」。この法律によって、条件さえ整えば、戸籍上の性別を心の性別に変更することが可能になりました。実際、すでに何人かの当事者が、戸籍上の性別から本来の性別への変更を許されています。

 「秘密」などで知られる東野圭吾が、この「性同一性障害」をテーマに取り組んだのが、今回文庫化された『片想い』です。
 私は、東野圭吾さんの作品は読んだことがなかったのですが、名前だけは映画化された『秘密』などで知っていました。そして、その彼の『片想い』が性同一性障害を扱ったものである、ということを聞いて、読みたいとは思っていましたが、ちょうど今年の夏くらいに文庫化されるのではないか?という気がしていたので待っていました。個人的に、文庫が好きなんです。というか、本がありすぎて置き場がないんですが(苦笑)。

 書誌的なことを書いておきますと、「週刊文春」1999年8月26日号~2000年11月23日号に連載され、2001年3月30日に文藝春秋から単行本が発売されました。単行本では、帯などで重要なテーマである性同一性障害については巧妙に隠されていました。文庫では、逆にそれを連想させる文字が踊っています。やはり、時代の流れもあるのでしょうか。

 中身に関しては、ミステリーでもありますから、読んでください、としかいえません。少々分厚いですが、読みやすいですし、何よりぐいぐい引き寄せられます。決して読んで損はない本です。

 私は、読み終わって、深く、考えさせられました。
 私は実際に、何人かの当事者を見ています。そして、見た目などは完全に心の性別として生活できているのに、小数の心ない人によって仕事を奪われ、生活を脅かされています。この物語で描かれていることはフィクションかもしれませんが、現実社会にあてはめて考えると、考えさせられることばかりです。

 ミステリーとしても、よくできたこの作品、ぜひ多くの人に読んで欲しいと思います。