標準化が生み出す価値-清川メッキ工業 | 蓮華 with にゃんこ達

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専ら、マーケットや国内外の政治経済ネタが多くなってしまいました。
母と愛しい我が子達を護りつつ日々闘う中で思う事をアップしていきます。

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大山鳴動して鼠一匹、という感じでしょうか。
年初からの株式市場の下げ、大騒ぎした割に、ミスターマーケットは、それ程気前の良いバーゲンセールをやってくれず・・・

まあ全体が上がろうが下がろうが、バリュー投資ではどうでも良い事なのですけどね。もうちょっとドカンとセールがあると嬉しいんだけどなー・・

アベノミクスの新三本の矢、介護離職ゼロというのがありますね。

当然現実的に相当な財政負担でも伴わない限り、どうやって達成するのか教えて欲しい所な訳ですが、それを実際に成し遂げた会社が、福井にある清川メッキ工業です。

極小ナノメートル単位の電子部品を覆うメッキ加工で月に約50億個の部品を加工してクレームはほぼゼロ、品質管理の高さで、経産省の第1回ものづくり日本大賞の特別賞にも選ばれている会社です(http://www.jmf.or.jp/monodzukuri/world/07.html

基本的に、メッキ加工というのは3K(キツイ、汚い、危険)職場の典型とされています。

同社は、元々金属表面処理技術を応用したオートバイ用のアルミ合金リム開発など、高い技術力では知られていましたが、70年代半ばには、新技術台頭でリム加工の需要が中長期的に減少すると考え、新分野の開拓に乗り出そうとしていました。

ちょうどそんな時に、電子基板の抵抗器にメッキ出来る会社を探して何十社と断られていた大手メーカーが打診をしてきたのです。
当然経験ゼロでしたが、現会長の清川忠氏は、即答で引き受け、研究と試作を重ねて技術開発に成功、80年代後半にはこの仕事も軌道に乗せ、注文が急増しました。ところが、バブル景気でもあり、求人を出しても集まらない、採用出来ても定着しない、という状況が続きます。

追い打ちをかけるようにクレームが多発、不慣れな上に需要急増で、詰めが甘いままラインを動かし、不良が出る、クレームの原因究明や選別、手直しで人手不足の現場にさらに負荷がかかる、疲弊した社員が凡ミスをして、またクレーム・・・悪循環で去る社員が続出し、90年新入社員の離職率が47%にまで上がったのですね。

ここから・・別に一足飛びに改善する秘策があった訳ではありません。

まずはクレームの止血、不良の原因を分析する技術を確立する事から。

メッキ加工は仕掛品を預かるので、製造工程の最後部で最終製品に不良が出た時にクレームになります。が、調べると前工程に問題がある『濡れ衣』も多い訳です。

でも中小企業で高価な検査装置の調達は出来ない。福井大学や福井工業技術センターから必要な装置を一つ一つ借りて検査体制を整え、原因分析を丁寧に根気よく進めていくと、『濡れ衣を晴らす』以上の効果があったそうなんですね。

原因を迅速に解明し、自社に問題があれば即座に手を打ち、顧客に原因があれば責任を押し付けずに、改良に向けて『顧客とWinWinの関係を保ち、エンドユーザーの利益になる解決を目指す』提案で協力姿勢を示したのです。この『仕掛品の問題をメッキで解決する技術を開発する』という提案が、さらなる評判と信頼を生む事になります。

次は、メッキ技術の標準化、マニュアル化です。

入社早々辞める社員には、仕事が覚えられずに自信を失った人が多く、原因は学ぶべき仕事の中身が曖昧な事、メッキ加工は職人技で、先輩の仕事を見て感覚的に覚えるとされていたのを、論理的に言葉で学べる土台を作ったのです。

マニュアル化については、以前、サービス業の労働生産性向上に絡んでブログに書きました。

『標準化を進めればサービスの質が安定し、従業員の基礎技術習得時間が短縮出来る事で、余裕の出来た従業員が顧客満足度を上げようとする為に、ホスピタリティーはむしろ高まります。』

と書いた通り、清川でも、マニュアル化、具体的にはISO9001を業界初取得した事で、基本の習得が早まり、一人一人が創意工夫する余地が広がり、社員から業務改善提案がドンドン出るようになったことでクレームが激減、『脱3K』が加速したのです。

そしてもう一つ、逆風下でも社員が仕事に誇りを感じられる場を作りたい、と始めたのが『メッキ教室』。最初に社員の子供たちを会社に招待し、社員が先生になって我が子達にメッキの原理を教え、加工でキーホルダーを製作しました。

笑顔で『御父さんの仕事って凄いね』と言われる社員たちの喜び、さらには、このキーホルダーを学校で自慢している子供たちを見て、地元の小中学校の先生から、『うちでもメッキ教室を開いて欲しい』と声がかかり、出張授業をする事になります。

この授業で、社員がもっと分かり易く面白く、という工夫をする中、仕事の意義についても深く考えるようになった事をキッカケに、同社は『教え合う事で学ぶ“共育”』を人づくりの柱に据えたのですね。

その一つが、生産管理の手法などを、中堅社員が若手に教える仕組み『品質道場』で、1日2~3時間、2~3週間かけて実践的なプログラムを取り入れたのですが、その過程で中堅社員の理解も深まり、全体の自発的な学び意欲が高まってきた訳です。

こうして20年かけ、一貫してリストラしない方針を貫く中、盤石な財務基盤と先進的な仕事に安心して取り組める職場を作り上げ、『従業員満足を最優先する優良企業』という評判を獲得した事で応募者が増え、離職率も0~4%のレベルにまでなったのです。

中小企業が如何に人材育成し、仕事の誇りを植え付けていくか、非常に素晴らしい御手本になりますね。