僕が子供の頃
表参道に似顔絵師がいた
日本人と言われればそう見えるし
外人と言われればそうも見える
そんな風貌の人だった
彼の描く絵は似ていた
まぁそれを商売にしてたんだから
当たり前なんだけど
女性はほんの少しだけ
実物よりキュートに描いた
男性はほんの少しだけ
実物よりイケメンに描いた
それが彼の美意識なのか
商売のためなのか
子供の僕にはわからなかった
ただ描いてもらった人が
似てる~
そう言って喜ぶ顔を見る
彼のちょっとほくそ笑むような笑顔
僕はそれを見るのが好きだった
僕は一日中ずっと
彼の側に座り込んでいた
彼はときたま僕を見て
笑っていたけれど
気にもとめていないようだった
客足が途絶えている時間
彼は鳥を描いていた
目の前に鳥が飛んでたわけではない
きっと彼の心の中に棲んでたんだろう
そんなある日
彼は思い立ったように
誰かを描きだした
僕だった
やがて彼はその絵を僕に渡した
僕は子供ながらに
お金が必要なことを知ってたんだろう
ポケットの中の小銭を
かき集めようとした
すると彼は
いらない、いらない
笑いながらそんな素振りをした
受け取った紙の中で
僕が笑ってた
少しだけイケメンの僕が
初夏の陽射しの中で笑ってた