これを徒然美術館シリーズに入れるべきか迷ったのですが、まぁこれも私の中では美術の一環なので良いだろうと。

昨年の冬、パリにいた時に偶然ピカソ美術館でピカソとジャコメッティ展をやっていて、これは見逃してなるものかと、氷点下の寒空の下並んで見たのですが、詳しくはこちらをご参照頂くといたしまして。


中でも猛烈に印象に残ったのが、2つのスクリーンに並ぶそれぞれの制作風景のムービー。まぁそれはそれは対照的で。暗い空間に真っ白いキャンバス、ぼんやりと浮かび上がるピカソの全身、「なんでもない」さらりとした麻のシャツとパンツ。徐々にクローズアップされる豪快な筆使い 。最早フィクションなのかドキュメンタリーなのかわからない、ピカソワールドに引き込まれる計算しつくされた作り。



それに比べてジャコメッティの、身なりなど何1つ構わず、撮りたいならどうぞ、という無防備さ。彼にしかわからないほんの数ミリの世界を、まるでオペでもするように、繊細な指で何度も何度も塗り替えていく。動きの少ない地味な映像なんだけれど、その指がね、なんかどうにもエロティックで。

これを見たときに、この2人の話、誰か映画にしてないのかしら、と思ったわけです。ピカソは考えに考えたけど、どうしても思いつかず、ただジャコメッティは絶対に絶対にジェフリーラッシュにやって欲しいと勝手に熱い想いを注ぎ。しばらく想像上の映画を上映しながら、ニンマリとワインを飲んでいたわけで。

そんなことすっかり忘れて、あれからざっと月日が流れ。真冬のパリと30度以上も違う、台北の映画館にあしげく通うようになり。この間無性に映画が見たくて途中下車して、一番早く見られるものに飛び込んだら、ジェフリーラッシュの作品。あ、これはラッキーかもと息を整えながら待っていたら、突然現れたのがジャコメッティの立像。

え、え、え、え。

しばらく何が起きているのかわからず、食い入るように画面を見つめていたら、とうとうアトリエが姿を現し、中には大量のジャコメッティの作品の数々。

人間びっくりするとわけがわからず涙が出てくるもので、冒頭から別に辛いわけでも感動したわけでもないのに、無駄に泣く羽目になり。あのパリのビストロで真昼間からワイン飲みながら妄想していたことが、どシラフの今、大きなスクリーンで映し出されているのが、どうにも現実味がなく不思議でならなくて。


両極端の女性2人に挟まれ振り回し振り回され、誰と約束していようと、作品が頭をよぎれば、すぐアトリエに戻る。納得いかなければ、どれだけ時間を費やしていたとしても、あっさりゼロに戻す。生活の中に決まったルーティーンがありそうで、執拗にこだわるわけでもなく、その基準は彼にしかわからない。捉えどころのない、なんともキワキワなラインを浮遊する姿は、誰にも捕まえられることなく、飛び続ける気まぐれな鳥のようで、なんだか羨ましくもありました。どこかで羽休めないと死んじゃうけど、こう言うタイプの人は長く生きようなんて思ってないんだろうな。

ただ、想像よりも、かなりスイートで人懐っこいジャコメッティだった。もう少し独自の世界に片足突っ込んだままのイメージだったな。ジェフリーラッシュというのもあって、その奔放さがどこかシャインを彷彿させるものがありました。ジャコメッティ本人はどうだったんだろう。ものすごく会ってみたい。というより、制作風景や人と会ってご飯を食べてるところを一メートル範囲内で見てみたい。見るだけでいいな。本人と喋ったら、私巻き込み事故に合いそうだもの、いろんな意味で。



映画のキャラクターはともかくとして、そもそも「削ぎ落とし系」が好きな私。今ざっと頭に浮かんでくるのがモランディ、ソールライター、あとイサム・ノグチ。鎌倉の近代美術館の中にポツンと置かれたあの彫刻の佇まいなんて、まさにだった気がする。子供の頃はカフェのプリン食べたさに、渋々着いて行ったけれど、中庭で一人で遊んでるのは好きだった。なんだろう、ミニマリストとも俗世を捨てるとも違うんだけれど、精神的に余計なものはいりません、みたいな生き方への憧れがずっとあるんでしょうね。ジャコメッティの作品に出会う時って、そろそろまた削ぎ落としの時期かな、なんて思ったりする。きっとついては取り、ついては取りの繰り返しなんだろうと思うけれど。

こういう話始めると、延々書き続けそうになるので、この辺りでやめておくとして。それにしても、映画一本見るにも本当にこっちは安い。この映画館好きすぎて、会員になっちゃいました。ナイトショー見て、ぷらっと歩いて帰るのがたまの気分転換。映画館も劇場も、1人で行くのがどうも好きみたいで。勿論ものにもよるし、友達とワイワイ見るのもいいんだけど、基本は見終えた後1人で静かに過ごしたい。このマイペース感、一人っ子ならではですかね。




帰り道に買った愛玉緑茶。台湾でもちびまる子ちゃんは人気です。小丸子といいます。そのまんまね。