シュールレアリスムというと思い浮かべるのがダリかマグリットだろう。
長い髭をたくわえた特徴的な風貌のダリとは違って、写真や作品に見るマグリットは『普通』のビジネスマンのように見える。
黒いハットにダークスーツ。
当時の彼はその装いのまま絵の制作も行っていたらしい。
ベルギーブリュッセルに生まれたルネ・マグリット。
幼少時代は美術に限らず多方面で突出した才能を見せる一方で、大変破天荒な性格だったようだ。
しかし、敬虔なクリスチャンであったマグリットの母親が自殺する。その衝撃的な出来事は、当然、彼の作品に大きく影を残すことになる。
フロイトが無意識の領域を確信し、世に発表したとき、世間は肝を抜かれた。無意識を表現しようとするシュールレアリスムが芸術として確立されていなかった当時、マグリットがその手法の虜となるのも自然な流れであった。
文字を絵に取り込むという大胆な発想も実に新しかった。
こちらは実際に私がシルン美術館のルネ・マグリット展にてまみえた"Amour"という作品。
ヨーロッパは激動の時代を迎えていた。大戦のさなか、ベルギー軍としてドイツに何度も出征したマグリット。
平和と愛を祈る気持ちが作品に表現されている。
前衛美術が弾圧されたヒトラー政権下においては、命の危険を感じながらそれでも描き続けた。
こちらは有名なパイプ・シリーズ。
フランス語で『これはパイプではありません』と書かれている。
パイプを描きながらパイプではないと否定する。しかし絵である時点で既に実用的なパイプではない。
こうした二重否定は斬新なアートとしてマグリットを代表する作品となった。
シュールレアリスムでは象徴的なモチーフが登場するのが常であるが、マグリット作品も同様。
カーテンは無意識の領域への導入を暗喩しているらしい。鷹は不幸な人生を自ら断った母へのオマージュ。鈴は自身の暗い過去との断絶を表しているとか。
マグリット自身は作品の意味するところについて語ることがなく、それもまた解釈が盛んに議論される人気の所以ともなったのではないか。
今回の展覧会のチケット。
ドイツ語で『これはチケットではありません』。
実に皮肉とユーモアが効いていて、マグリット的だ。


