実習に行く度に
「申し出が少ない」「言ったことを取り入れられない」
との指導を受ける看護学生がいます。
病棟スタッフは
適切な関わりや指導をしてくれているにもかかわらず
おどおどした態度がいつまでも続き
患者さんに必要なことがほとんどできないまま
実習がすぎていってしまう・・・。
教員も話を十分にきいて心理状態を分析しつつ、不足点を少しでも改善できるようなアドバイスを施しても、行動に変化がみられない。
私が出会った一人の学生も、まさにそうでした。
知識は不十分、技術も遅れがち、主体性も弱い。
いわゆる「ダメ学生」と思われても仕方がない。
温和な指導指導者たちも生じた怒りを抑えるためか、
ひきつった顔が真っ赤になってしまう。
こんなにたくさんの人が指導をしても
どうして変化がみられないのか。
そして、どうしたらよいものかと悩める日々を経験しました。
実習前に加えた“シミュレーション”
当然、そのまま、その学生を次の実習に行かせることはできない。
そこで私は、実習に入る前にできる限りのシミュレーション演習を取り入れることにしました。
内容は特別なものではありません。
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バイタルサイン測定と報告
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患者との会話とその展開
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陰部洗浄など、行う機会の多い看護ケアを手際よく、など
しかし、事前に練習の場を設けることで、
学生の 「できない部分」だけでなく「できる部分」
にも気づけたのです。
そのとき私は、こう声をかけました。
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「観察の視点が増えてきたね」
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「患者さんへの声かけが丁寧にできていたよ」
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「会話の中で疑問に思えたことを声にすることで大事な部分が聞けていた」
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「手際がよくなってきた」
ほんの一言でしたが
この小さな認めが学生の表情を変えました。
実習本番での変化
そして迎えた実習。
果たしてシミュレーションの成果が発揮できるか
ハラハラしながら見守る教員の前で
学生はシミュレーションで練習した通りに落ち着いて患者に声をかけ観察を始めました。
まだぎこちない部分はありますが
以前より自信を持って行動しているのが伝わってきました。
実習後
「今日は患者さんに自分から声をかけられたね」と伝えると
学生は照れくさそうに笑いながら「はい、頑張ってみました」と答えました。
その笑顔は、これまでにはなかった前向きさに満ちていました。
また、実習の後半になると実習指導者より
「以前と比べると患者とよく接しているし報告がスムーズになりました」
「的を得た相談をしてこれたので驚いています」など
学生が変化したことを認めてくれる評価があったのです。
“ひとつの認め”がもたらす力
この頃から学生は大きく変わり始めました。
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受け身で指示待ちだったのが、自分から「次は何をすればいいですか」と動くようになった。
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「難しいです」と下を向くのではなく、「工夫してみます」と前向きに取り組むようになった。
もちろん、すぐに完璧になったわけではありません。
けれど、不足ばかり指摘されていた頃の消極的な姿勢は消え、
成長への大きな一歩を踏み出したのです。
私は気づかされました。
“できた”を認めることが、いかに大きな変化をもたらすかを。
教員としての学び
この経験から学んだのは、次の2つです。
1. 不足を補う仕組みをつくること
実習前のシミュレーションを取り入れることで、学生が課題を事前に把握しやすくなり、臨床での不安を軽減できる。
2. 小さな成長を認めること
「できていない部分」ばかりに目を向けるのではなく
「できた一歩」を言葉にして伝える。これが学生の自信とやる気につながる。
この二つは、まさに教育の両輪です。
どちらか一方では学生は伸びません。
そして
学校として学生に対しどう関わっていくか
実習前に何をしたか
その結果はどうであったかについて
実習指導者と共有することも看護教員の大切な役割です。
まとめ ― 未熟さを前提に、変化を認める
看護学生は未熟であって当然です。不足だらけに見えるのも自然なこと。
しかし、そこに補う工夫(シミュレーション)と認める言葉を加えることで、学生は自分の力に気づき、前に進む勇気を持つのです。
臨床指導や教育の現場に立つと、どうしても欠点が目につきます。
けれど、その奥には必ず小さな成長が隠れています。
あなたの学生にも、きっと同じ可能性があります。
その小さな変化を見つけて、ぜひ認めてあげてください。
――その一言が、学生を大きく変えるきっかけになるかもしれません。
先生方、頑張って下さい。
応援してます!