とても暗い、暗い時代。

 

人の個人的なアレコレが、ことごとく無視されて、

それどころか、排除されようとしている時代。

 

多分、ある宗教が政治と結びついて、人々を支配していた。

 

支配する側が使ったのが「恐怖」。

来世への恐怖、死後の恐怖。今ある恐怖。

 

 

そして「敵」「悪魔」

 

この世には邪悪なものが存在していて、

それが「あなたを滅ぼそうとしている」

 

生まれた頃から刷り込まれてきた暗示で、

もうそれが、あたりまえに思っている。

 

 

こういうの、

きっと東洋でも西洋でも、すごい昔でもちょっと前でも、

なんども繰り返し起こってきたと思う。

 

 

「敵」として魔女が狩られた頃もあった。

 

これも、西洋、東洋、どっちもあったと思う。

だから、この物語の舞台が、西洋の「魔女狩り」なのか

ちょっとわからないんだけど。

 

 

そこに、そういう頃にいた、

ある女性。

 

 

彼女は魔女だった。

 

 

たぶん、家系として続いてきた。

昔からの魔女。

 

 

母から娘へ、知恵が伝わっていく。

 

ここで、どうやって生きていくか。

 

 

他のところに行くなんて思いもつかないし、

行けても、きっと同じようなところ。

 

閉じ込められている感じだけど、

みんなそうだから、閉塞感を空気のように思っている。

 

 

彼女は、家系のなかでも、とても強い魔力があって、

それを知った母親は

 

 

嘆き悲しんだ。

 

 

どうしたら娘を安全に育てられるか?

 

ずっと考えるけど答えが出ない。

 

 

 

彼女は子供の頃から、

まわりの子供と同じように

同じようなことをして、

同じようなことを言って、

 

 

はみでないように育てられて。

 

 

思春期のころには自分の力についても教わった。

 

どうやって抑制するかを教わった。

 

 

母親も彼女も、いつもどこか怯えている。

 

 

あるとき、

 

近所に魔女がいる、と噂が流れて、

ある女性が捕らえられ処刑された。

 

 

 

処刑が行われたとき、

町全体が、ホッとしたの。

 

ふっと空気が軽くなったの。

 

 

「ああこれで魔物は退治されたから、しばらく安全に暮らせる」

って、

町の人たちが思って、

 

彼女も母親も、

その空気の変化を敏感に感じて、ほっとした。

 

重いものから解放された。

風がふいた。

 

 

軽くなった。

 

 

楽しいことも起こって、

しばらく平穏が続く。

 

 

だけど、やっぱり

少しずつ空気が重くなってくる。

彼女も母親も、自分の魔力を隠して、

何も見えないふり、

何も聞こえないふり、

何も動かせないふりをして

 

でも苦しくって。

 

 

苦しい、怖い。

隠しているのが苦しい。

 

 

そしてさ。

だんだん、

 

 

彼女は、

自分以外の女性を魔女として

告発するようになったのだ。

 

 

噂をながしたり、

権力のある人間に教えたり。

 

 

そして、

魔女として処刑されるのを見ていた。

 

 

魔女が処刑されると、

自分の苦しさ、重さ、怖さが

一瞬でも軽くなる。

 

 

一瞬でも軽くなる、その快感と

苦しさ重さ、怖さとの

大きな針の振れ幅が、どんどん彼女を

動かしていく。

 

 

魔女の悪を説いて、

他の人たちの恐怖をあおって、

魔女を狩っていく。

 

 

ずーっとずーっと。何人も。

 

 

彼女がいつ気がついたのか、

よくわからないけど。

 

 

暗闇の中で、嗅覚だけを頼りに

すこしでも安全と思えるほうへ

すこしでも気が楽になるほうへ

 

 

自分自身が魔女であることも

忘れてしまうくらい。

 

 

でも

いつか、

何かのきっかけで

 

気がついた。

 

 

自分が何をしているのか。

 

 

 

気がついてしまったら、

もう壊れちゃうね。

 

 

支えきれない。

 

 

自分がやってきたことの悪事の重さ。

 

 

 

何人も何人も、

殺してきた。

 

 

それを見てきた。

 

 

それを喜んで見てきた。

自分がすこしでも軽くなるから。

 

 

 

気がついた瞬間に、

彼女は壊れてしまって、

その重さを抱えたまま、この世を去る。

 

 

 

そしてね、

どうするかっていうと、

 

別の転生で、すこしずつ

その重さを開けてみているの。

 

 

自分の罪を

別の転生で、

すこしずつ開けてみているの。

 

 

すこしずつ自分を罰しているの。

 

 

もしかして転生で、

殺した女性に会うかもしれない。

 

そのときに

自分を罰するの。

 

 

彼女の言いなりになったり、

彼女に傷つけられたりして。

 

 

どうしてだろう?

どうしてこんな目にあうのかな?

 

って

不思議に思いながら、でも

自分が悪かったんだな、ってどこかで分かっている。

 

 

これは自分のせいなんだって。

 

 

 

そうやって少しずつ自分を罰して行って、

いつか罪が軽くなる日を

夢見てるの。

 

 

 

meoさんによる写真ACからの写真